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【執筆ノート】
『アメリカとヨーロッパ』

2018/12/11

  • 渡邊 啓貴(わたなべ ひろたか)

    東京外国語大学大学院総合国際学研究院教授・塾員

本書の執筆の動機は、私の研究者としての出発点からのものだ。私はフランスの政治外交を専門としてきたが、学生時代から日本の外交を考えるに際し、対米関係ばかりが語られることに疑問を持っていた。地球は丸い。素朴な疑問であった。今から33年前に書いた当時のミッテラン・フランス外交に関する論考のタイトルは「同盟も自立も」だった。

日米外交を語るには、アメリカのもう1つの、そしてより相互に親密な米欧関係をきちんと押さえていなければならないのではないか。それが本書の出発点だった。

フランスの外交史から始めて現代のフランス政治・外交、EUなど自分の専門領域をまとめるためにずいぶん時間が経ってしまった。本書のスケッチとなる米欧関係の通史的な論文を書いたのは20年以上前だった。フランスには学生として留学していたから、早いうちにアメリカに留学して彼らの対欧感を直接習得したいという思いが実現したのは、新世紀に入った9・11テロの翌年だった。そしてイラク戦争に向かう真っただ中のワシントンDCで、私は1年余り研究することになった。

そこで愛憎相半ばする米欧の角逐を目の当たりにした。国連安保理で米と独仏が激しく言い争っている真っ最中に、ドイツから数名の英語を話す閣僚が渡米し化学兵器処理のための協力などについて閣僚会談を持っていた。第2次世界大戦の主たる対戦国はこの両国ではなかったか。

独仏の反米的な風潮だけを取り上げ、イラク戦争支持を白か黒かという論法で単純に論じていた日本の論壇には、戦争に向かう国際社会全体の構造や終戦後についての構想と自らの役割についての自覚はなかった。そうした国際社会への責任ある議論は今でもこの国には不確かだ。

そんな疑問を持ちながら、帰国後『ポスト帝国』『米欧同盟の協調と対立』という2冊の本を上梓した。今次の出版は、その基礎となる通史が必要だとその時に痛感したからである。できるだけ多くの方に米欧同盟を理解してもらい、日米同盟をグローバルな広い視野から相対的に考えてほしいという思いを込めて執筆した。わが国の外交論議の愁眉を少しでも開くものであればと願う。

『アメリカとヨーロッパ』
渡邊 啓貴(著)
中公新書
256頁、820円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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