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【執筆ノート】
『子どもたちは人が好き──幼児期の対人行動』

2018/12/07

  • 川上 清文(かわかみ きよぶみ)

    聖心女子大学文学部教授・塾員

私の数少ない特技のひとつは、子どもたちとすぐに仲良くなれることのようです。保育園で子どもたちと遊んでいると、まったく存在感がない、といわれます。それは、ほめられていないかもしれませんが、まあいいでしょう。その特技を使って、保育園で子どもたちの中に入り観察を続けました。それをいくつかの英語の論文にまとめたのですが、その内容を読みやすい形に書き直して本にしました。論文には含めることができなかった、子どもたちひとりひとりの記録も記述しました。

私たちは全員乳幼児期を過ごしてきたわけですが、その時代のことをほとんど記憶していません。そもそも生物学的に考えて、なぜ子ども時代があるのでしょうか? この本を読んでいただくと少し答えが見えてくるかもしれません。またヒトという生き物の特徴を考えるヒントも呈示したつもりです。

ヒトは生まれた時から様々な経験をしますが、生後1歳半くらいから自分という存在を理解し、他者との関係を作っていきます。保育園でその頃の子どもたちの日常を記録しました。私はどのくらい子どもたちの生活を描写できたでしょうか。もちろんそれは全体のほんの一部です。ただそのような記録が積み重なれば、心理学が少しは文学や詩などが描いてきた子どもたちの世界に近づけるかもしれません。

本文に出てくる専門用語には、コラムをつけて解説しました。できれば保護者や保育関係者の方々にも手に取っていただきたいという趣旨からです。コラムをたどっていくと発達心理学入門になる、というような使い方もしていただけるでしょう。本の最初の部分には、発達心理学(マイケル・ルイス)、臨床心理学(丹羽淑子)、教育学(村井実)の理論を要約しました。それらは先達から学ぶ理論編です。

私が三田の山を巣立って40年経ちますが、本の所々に三田で学んだことや考えたことが出て来て、こうして本誌に紹介させていただく機会を得たことをありがたく思います。この本の編集者は小室まどかさんという塾員で、彼女のサポートのおかげで完成しました。さて三田の卒業生の実力はいかがでしょうか。

『子どもたちは人が好き──幼児期の対人行動』
川上 清文(著)
東京大学出版会
208頁、2,300円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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