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【執筆ノート】
『EVと自動運転──クルマをどう変えるか』

2018/08/28

  • 鶴原 吉郎(つるはら よしろう)

    オートインサイト代表、技術ジャーナリスト、編集者・塾員

岩波書店の編集者の方から、新書を企画できないかという問い合わせをいただいたのは2017年9月のことである。その月に、別の出版社から出した本をその編集者の方が読んでくださり、筆者に興味を持ってくださったのだった。

10月の初旬に打ち合わせをし、どういう本にするかを考えた。前著は、主なテーマを自動運転に絞り、自動運転技術が普及していくと、自動車産業、およびその周辺産業にどのような影響があると考えられるかについて書いたものだ。どんな企業がどんな技術の研究開発を進めているのか、個別の業種ごとにどんな影響があると考えられるのか、駐車場業界は、自動車教習所は、自動車整備工場は、とかなりミクロ的な視点で社会や産業の変化を取り上げた。

今回はもっと視点をマクロにし、自動運転だけでなく、EV(電気自動車)に代表されるようなパワートレーンの電動化、コネクテッドカーと呼ばれる、いわゆる「つながるクルマ」も含めて、自動車産業における「価値」がどのように変わっていくのかを書こうと考えた。ベースになったのは、最近の講演で話している内容である。

現在クルマの世界で起こっている変化は、実は社会全体で起こっている巨大な変化の一側面に過ぎない。小売業界や音楽業界など、すでに大きな変化にさらされている業界があり、そこで起こっている変化は、やがて自動車産業にも波及する。そうした変化の本質は、「価値の革命」であり、こうした変化がクルマを「モノ」から「サービス」へと移行させていく──。こういうお話をすると一般の方にも興味を持っていただけることが多い。

自動車産業では「クルマを造って、売る」というビジネスモデルが100年以上続いてきた。自分たちの事業基盤が根底から覆されるような変化は、経営層も含めて経験していない。そういう「幸運な産業」が、初めての巨大な変化にさらされている。新たな産業に生まれ変わることができるかどうかはまだ予断を許さないが、業界内でも危機感は高まっている。日本の自動車産業が新たな時代を切り開くうえで、本書が少しでもお役に立てたらと願っている。

『EVと自動運転──クルマをどう変えるか』
鶴原 吉郎(著)
岩波書店
224頁、780円(税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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