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【執筆ノート】
『「片頭痛」からの卒業』

2018/08/10

  • 坂井 文彦(さかい ふみひこ)

    埼玉国際頭痛センター長・塾員

このたび上梓した「『片頭痛』からの卒業」は、片頭痛のメカニズムと対処法を一般の方に知って頂くため、私の片頭痛研究をまとめた本である。「頭痛」といっても実にさまざまで、国際頭痛学会では367種類に分類している。その中でも片頭痛はかなり悪玉で、健康寿命を短くする病気の4位にランクされている(WHO)。日本人の片頭痛人口は約1000万人と推定され、まさに国民病である。

ところが日本では、片頭痛は「たかが頭痛」とみられ未だに病気扱いされていない。頭痛で会社や学校を休みたくても「頭痛ごときで」となるため、「黙って、耐えて」いる人が少なくない。私は慶應病院の医局で脳循環の研究をしていて、片頭痛が脳のダイナミックなメカニズムにより起こることに気づき、その脳の不思議に魅了され、研究を行ってきた。

片頭痛の原因は多因子遺伝である。高血圧や糖尿病の家系のように「体質が遺伝」し、そこに何らかの誘因が加わって頭痛発作が起こる。誘因は脳セロトニンの低下で、体や心のリズムの変化で起こる。急な気圧の変化、週末の仕事からの解放、月経前のエストロゲン(女性ホルモン)の低下などが代表的である。片頭痛の症状は脈打つ痛み、吐き気、光・音・臭いに過敏など多彩である。動くと頭痛がひどくなり、「静かな暗い部屋で寝ている」と少し楽という厄介な頭痛で、仕事の能率は半分以下あるいは不可能になる。

きちんとした本が書けるか不安に思っていたとき、「あなたがよく話している熊野神社に行ってみない?」と妻が言ってくれた。「日本を代表する頭痛もち」後白河上皇が自分の頭痛平癒を祈念して詣でた紀伊の熊野本宮大社である。その地で後白河上皇は前世からのお告げを聞き、頭痛平癒のため三十三間堂(京都)を建立した。奉納するために切った柳の木の跡とされる薬師堂にたどり着いた私は、そのお堂で片頭痛の歴史をたどることができた。

片頭痛は働き盛りに多いため、頭痛による社会的・経済的損失が大きい。本書では、片頭痛発作の対処法に加え、筆者が考案した片頭痛予防体操など、片頭痛をなくすための極意をお伝えしている。

『「片頭痛」からの卒業』
坂井 文彦(著)
講談社
230頁、840円 (税抜)

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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