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【執筆ノート】
『ピエ・ノワール列伝──人物で知るフランス領北アフリカ引揚者たちの歴史』

2018/06/26

  • 大嶋 えり子(おおしま えりこ)

    早稲田大学地域・地域間研究機構客員次席研究員・塾員

法学部在籍時、私はフィリップ・オステン研究会で国際刑事法を学び、戦争犯罪や人道に対する罪に興味を持った。現代においても過去の筆舌に尽くしがたい大規模な暴力行為は民族間、国家間に深い傷を残しているからだ。大学院ではフランス政治と国際関係を専門とし、博士課程からは旧植民地であるアルジェリアとフランスの間のいわゆる「歴史認識問題」を取り上げてきた。

本書では塾員である編集者の濱崎誉史朗氏との巡り合わせもあり、フランス統治下のアルジェリア(1830-1962)の歴史を主たるテーマとした。本書はフランス統治下のアルジェリアで生まれたフランス人を主に取り上げている。彼ら・彼女らは黒い足を意味する「ピエ・ノワール」と呼ばれている。1954年にアルジェリア独立戦争が勃発すると、アルジェリアは熾烈な暴力の舞台となり、終結を迎える1962年の前年から多くのヨーロッパ系入植者の子孫とフランス支配以前からアルジェリアに居住していたユダヤ人の子孫が地中海を渡り、フランス本土に引き揚げた。

文化や歴史に関するコラムを交えつつ111人の列伝という形式を取り、フランスによるアルジェリアの植民地支配を描きたかった。そうすることで一般的に流布しているフランスやフランス人のイメージを改めたいと考えた。ニコール・ガルシアはフランス映画界を代表する女優であり映画監督だが、アルジェリア生まれの彼女と本土の親族はアルジェリアをめぐり意見が対立し、出身地との関わりは彼女の映画人としてのキャリアに影響を与えた。ゆえに、単に「フランス人女優兼映画監督」としてガルシアを紹介することには違和感を抱かざるを得ないだろう。

他にも作家のアルベール・カミュやデザイナーのイヴ・サン=ローラン、思想家のジャック・デリダもアルジェリア生まれである。多くの芸術家や政治家なども輩出しており、「フランス的」と我々が思っているものは意外とアフリカ大陸と密接に関係している場合がある。

本書が植民地支配や戦争の過酷さと、多様なルーツが入り交じった現代フランス社会への理解を深める足がかりとなればと願う。

『ピエ・ノワール列伝──人物で知るフランス領北アフリカ引揚者たちの歴史』
大嶋 えり子(著)
パブリブ
288頁、2,300円(税抜)


※所属・職名等は当時のものです。

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