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【塾員クロスロード】
高杉 早苗:ピザで世界を変えたくて

2025/12/16

写真:Khoa Nguyen
  • 高杉 早苗(たかすぎ さなえ)

    「PIZZA 4P’s CORPORATION」Co-Founder&Deputy CEO・2006政

キラキラと光る水面の鴨池、天気と風向きで漂う養豚場の香り。日吉や三田で過ごした大学4年間以上に、私の核を形作ったのはSFC中高等部での6年間です。教員室前の廊下に掲げられた「独立自尊」。数学のテストなのに必ず出題され、書けば点数になるからと必死で覚えた「慶應義塾の目的」。母校は知識を詰め込む場ではなく、人生への向き合い方を学び、それを共につくる人々と出会う場所でした。

現在、私はインドで「Pizza 4P’s」というピザ屋を営んでいます。「Make the World Smile for Peace」というビジョンを掲げ、ピザを通して人々が"すでにある幸せ"に気づける世界をつくりたいと願っています。「ただのピザ屋が……」という声も聞こえそうですが、レストランをメディアと捉え、あらゆるタッチポイントに想いを込め、世界中の人を笑顔にすることを本気で目指しています。2011年にホーチミンで開いた1号店は、今ではベトナム5都市に加え、カンボジア、インドネシア、インド、東京・麻布台へと広がり、5カ国40店舗となりました。

異国で働く中で、世界に家族が増えていくような感覚を覚えます。来越当初、バイクで渋滞した道に溢れる人々はまとめて「ベトナム人」でした。しかし、仕事を通じ真剣にぶつかり合うと、それがチャン、ホア、といった大切な名前のついた仲間へと変わりました。インドでは、日本人との文化の違いや人種の差が、より顕著です。それでも、開店準備からオープン後の日々を必死で共に過ごす中で、「インド人」という一括りの概念は消え、スーリア、アルンといった、名前のある大切な仲間になります。世界に日本以外の第二、第三の故郷が生まれ「私たちは同じ、地球の子だ」と実感できる、何にも代え難い幸せな瞬間があります。

寄稿にあたり改めて「独立自尊」の意味に立ち返りました。自他の尊厳を守り、判断と責任を自ら引き受ける精神。この思想こそ、多様性溢れる環境で偏見に左右されず、同じビジョンに向かって仲間と歩むための揺るぎない軸でした。当時は意識していなかった壁に掲げられたあの言葉は、今の海外での挑戦を支えてくれています。

ピザで世界はきっと平和に変えていける。そう信じ、これからも歩み続けます。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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