【塾員クロスロード】
下島 綾美:お菓子作りと考古学
                  2025/10/29
 
                            私は、文学部で民族学考古学を専攻し、修士課程を修了しました。その後、埋蔵文化財の発掘調査員の経験を経て、現在はミュージアムの計画に関わる仕事をしています。
そのかたわら「お菓子あそびプランナー」として、お菓子を使ったコミュニケーションを通じ、考古学などの専門知識や地域文化の魅力を子どもや一般の方に伝える活動をしています。考古学の魅力を伝えていく取り組みは、各地の博物館などの教育普及活動で数多く展開されており、ファン層の裾野も広がりつつありますが、まだまだ一部のコアな層にしか届いていないのが現状です。
一方、お菓子は、多くの人の関心を惹きつけ、味覚や視覚を通して、人の心を躍らせます。さらに、お菓子を一緒に作り、食べることにより、年齢や肩書きを超え、人と人をつなげる役割も果たしています。
私は、お菓子にコミュニケーションツールとしての可能性を感じました。そして、お菓子というツールを通してならば、正攻法の解説だけではなかなか伝わりにくい専門的な事柄も、より多くの方に伝えられるのではないかと考えたのです。
それから、全国の博物館や埋蔵文化財センターなどが主催するイベントの中で、考古学とお菓子を掛け合わせたワークショップを手掛けるようになりました。これまでに、100カ所以上で実施しています。
たとえば、土器や土偶のようにこねて焼き上げたクッキーや、貝塚の堆積に見立てて組み立てるパフェ、茅葺(かやぶき)のようにマロンクリームを絞り出した竪穴式住居のモンブランなどを作っています。参加者の中には、お菓子作りを目的に来たものの、考古学にも「意外と面白い」と関心を向けてくださる方が少なくなく、やりがいを感じています。
私は、考古学の一番の魅力は、モノを「観察」(触察も含む)することにより、実感を伴った生々しい情報と出会うことだと考えています。そのため、ワークショップの中でも、ただお菓子を作るのではなく、まず観察することを大切にしています。
実物に触れ、五感で得た情報をお菓子で模倣する体験を通して、考古学ならではの視点や思考を感じてもらえるよう、工夫を重ねています。
今後は、お菓子作りの知識や技術を専門的に学んで、より美味しく楽しい活動を展開していきたいと考えています。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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| 三田評論のコーナー | 

下島 綾美(しもじま あやみ)
お菓子あそびプランナー・2007文、2010文修