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【塾員クロスロード】
秋山 真純:アントレプレナーシップと人生の共通点

2025/08/22

  • 秋山 真純(あきやま ますみ)

    Le Comptoir 共同代表・2013政

私は、「カウンター」を意味するフランス語 Le Comptoir(ル・コントワール)の共同代表として、毎月チーズとワインを届けるサブスクリプションサービスや、体験型フレンチレストランを渋谷で運営しています。食を通じて、大切な人たちと共有する幸せなひと時や心あたたまる空気感、人生を楽しむフランスのライフスタイルをお届けしています。

充実した留学制度に惹かれて義塾に進学。いただいた留学枠はニース大学。日本で唯一、たった1枠の留学枠を持っている提携校がうちの大学というニッチさが、人と違うことをしたがる私の性分にも合っていました。その後、仏化粧品会社に就職し、日本人で初めてパリ本社へ転籍。現地で転職するも、コロナ罹患を機に「不確かなこの世の中。今やりたいことをやろう」と起業を決意。創業・結婚・帰国を伴う引っ越し、さらには出産・店舗開店をすべて1年でやり切りました。

スピード感をもって事業を推進し、自信を得ることができた一方で、自分の限界も見えてきたのがアントレプレナーシップ。今まで慣れ親しんできた自分自身との乖離や、社会を見る自分の目の変化など、感じた戸惑いや孤独感は大きかったです。

起業家として、ひたすらやるべきことや解決すべき課題に向き合い、走り続けてきた日々。創業から5年が経とうとしている今、しっくりくるようになったのは「Resilient で Patient な人は強い。でも成功する必要条件は、好きで信じて続けていること。自己犠牲を伴った事業展開はメンタルにも危険」という言葉。

義塾の卒業生には、真面目で頑張り屋な方も多いと思います。だからこそ、日本社会の中で自分の気持ちを置き去りにしがちです。

海外の起業家達に教えてもらったのは、自分の人生にとって何が大切で幸せかに素直であれ。社長だからって徳のある完璧な人間になる必要も、皆に好かれる必要もない。この過酷な世界でまず自分の心を守ることが何より大切だということです。

私自身つい未来のために走ってきた人生だった気がします。でも人生だって結果だけ見れば、みんな死んでしまうのだから大失敗。しかも生まれたその時から分かっているという残酷さ。だからこそ"どう生き抜くか"という過程を大切にすべきである。フランスに住む起業家の友人がくれた、心に残る言葉です。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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