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【塾員クロスロード】
田辺 美那子:肉とユーモアと曖昧さ

2025/06/19

  • 田辺 美那子(たなべ みなこ)

    アーティスト、ギャラリスト・2017薬、2019薬修

私は薬学部・薬学研究科を卒業後、百貨店に就職。婦人服のバイイングなどを担当したのち退職し、自身のギャラリー(タナベ画廊)を開業しました。現在もアーティストとしての活動を続けています。

幼少期から絵を描くのが好きで、中学校で美術部へ入部したことをきっかけに油絵を始め、大学入学後は綜合美術団体パレットクラブで制作活動を続けました。

私は、日常生活において身近で当たり前の存在だけれど、違和感を覚えるものや滑稽なものをテーマに描くことが多く、中でもサシの綺麗に入ったお肉を箸でつまんだ絵を最近はよく描いています。きっかけとなったのは、食料品のチラシの中で堂々たる存在感を放つ、箸でつままれた肉が気になったことです。それは高級感の溢れる美味しそうなお肉を演出するための、当たり前の広告イメージとしてのポーズだと思うのですが、どうしてもそればかりが目について、滑稽に思えてたまらなくなりました。日常生活を送っていると、一見当たり前すぎて見過ごしてしまうけれど、実は滑稽であったり違和感を覚えることは、他にもたくさんあるのではないかと思います。

私のキャリアが示しているが如く、制作活動においても一貫したテーマや強く伝えたいことなどは特にありません。分かりやすく全てを描くのではなく、描きたいところまで描いて、あとは皆さんでどうぞ、といった形で鑑賞者に委ねるところが多いです。そのため、お肉の作品を見た人との会話が社会問題や和牛の種類などにまでおよび、自分が思ってもみなかったような感想や考えを頂けることがあり嬉しいです。完全に決めてしまうより、余白を残しておいた方が、そのような未知の楽しさの広がりがあると思っていますし、ユーモアや社会で嫌厭されがちな曖昧さを受け入れられるゆとりも大事にしていきたいと思っています。

ギャラリーは、本年4月に開業しました。制作活動を続けていく中で、もっと多くの人にアートや表現を楽しんで欲しい、作品を買うことへの敷居を低くしてほしいと思うようになり、アートマーケットの裾野を広げることと、若手アーティストの活動の場を作ることを目的として場所を構えました。アーティストとしてもギャラリストとしても、ユーモアと曖昧さを含有したもの・場所を引き続き作っていきたいです。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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