【塾員クロスロード】
浅田 剛治:私が起業し続ける理由
2025/05/22

ハイパードライブは、私が起業した2社目の会社だ。
1社目は結婚式場運営を主軸とするノバレーゼ。経営の私物化を防ぐために、たとえ創業者でも次の世代にバトンを渡すべきだという考えから、47歳で退任した。完全に口出しできない状況を作るために、保有していた株式も全て売却した。
当時は様々なメディアで「華麗なるイグジット」などと取り上げていただき、周りからは「この先、悠々自適ですね」と言われたりもした。だが、私には「売り抜けた」という感覚はなく、「次はどんな事業を起こそうか」と考えを巡らせていた。
この感覚は慶應で培われたところが大きい。現役生のために寄付を惜しまないOBの姿、先輩方との会話から感じられる「自分には果たすべき社会的責任がある」という崇高なプライドなど。学内には「授かった能力や富は社会に還元するもの」という意識が息づいていたと思う。
ハイパードライブが目指すのは、ブライダル業界の健全化。ウェディングドレスや引き出物などの選択肢は、結婚式場が指定する業者のみという古い商習慣が根付き、健全な市場競争を妨げている。また、ブライダルの現場はアナログな面が多く、デジタルネイティブ世代の顧客離れを加速させている。この課題を解決すべく生み出したのが、結婚式の準備サイト「CORDY(コーディ)」。ウェディングドレスや引き出物、当日を撮影するカメラマンなど、結婚式に必要なアイテムやサービスを、お客様がウェブ上で吟味し購入できる。式場のお仕着せではなく、各々の価値観に合わせ、自由に選択できる環境を整えることで、結婚式の満足度も高められると思う。
今、結婚式の実施率は50%を下回っている。式を挙げないという決断を咎めるわけではないが、長くブライダルビジネスに携わり、何ものにも代えがたい結婚式の価値を知る身としては「もったいない」という気持ちが強い。
結婚式以上に、家族や友人のありがたみを実感できる節目はない。ふたりの人生に欠かせない人たちとの絆を強めるチャンスでもある。大勢のゲストに囲まれる華やかなパーティだけが結婚式ではない。フォトウェディング、家族だけの会食など、結婚式には様々な形がある。そんな選択肢を世の中に提示することが、私の使命だと思う。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
- 1
カテゴリ | |
---|---|
三田評論のコーナー |
浅田 剛治(あさだ たけはる)
株式会社ハイパードライブ代表取締役・1992商