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【塾員クロスロード】
紫貴 あき:学び続ける力が、私をソムリエにした

2025/05/28

  • 紫貴 あき(しだか あき)

    J.S.A.認定ソムリエ・ワインスクール「アカデミー・デュ・ヴァン」講師・2001法

就職氷河期の真っただ中、何を目指すべきか見いだせないまま、私は社会に出ました。選んだのはSE(システムエンジニア)という職業。しかし、日々の業務にやりがいを見つけることができず、「学生時代にもっと学んでおけばよかった」という思いが募るばかりでした。そんなある日、求人誌で見つけたワイン専門の輸入商社に転職したことが、私とワインの最初の出会いでした。

当時の私はワインについては、「赤」と「白」の違いしか知りませんでした。けれど、ソムリエ資格取得を勧められたことをきっかけに勉強を始めると、ワインの奥深さに夢中になっていきました。法律を学ぶ中で得た「体系的に知識を積み重ねていく面白さ」が、ワインの世界にもあると気づいたのです。ブドウの品種や土壌、気候、造り手によってまったく異なる味わいが生まれる。その背景にある歴史や文化、法律さえも絡み合う世界は、知れば知るほど尽きることがありません。もっと知りたい、もっと深く学びたい。そんな思いから、海外の資格試験やコンクールにも挑戦し続けています。学び続けることが、私のソムリエ人生の原動力です。

すると、アカデミー・デュ・ヴァンというワインスクールから講師のお声がけをいただきました。両親からは、正社員でもなく、業務委託契約であることに不安の声もありましたが、「ワインの魅力を伝える」という仕事に私は迷いなく進みました。

義塾で学んだ「論理的に思考する力」は講師という仕事でも大きな支えとなっています。ワインは感性の世界だと思われがちですが、その魅力を伝えるには、相手の理解に沿った説明が欠かせません。難解なことをいかに平易に伝えられるか、受講生が何を求めているのかを論理的に組み立てていく。法学部で鍛えた「構造化する力」は、まさに今の自分を形づくる柱だと感じています。

思い返せば、学生時代の学びと、恩師や友人との出会いが、私の人生の礎です。あの時期があったからこそ、今、学び続けることの楽しさを実感しています。

私のソムリエ人生は、まだ道半ばですが、これからも義塾で培った「考え抜く力」を携え、ワインの世界を旅し続けたいと思います。そして、1人でも多くの人にワインの喜びを伝えられたら、それ以上の幸せはありません。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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