【塾員クロスロード】
松浦 直彦:創造性を世界に
2025/04/21

私は、17年間にわたり投資銀行と投資ファンドの世界に身を置いた後、3年前にファッション業界に飛び込みました。
金融業界では、M&Aや資金調達などの仕事を通じて、多くの企業と関わる機会を得ました。それぞれの経営者がどのように事業を成長させ、時には困難を乗り越えているのかを間近で見ることができたのは大きな学びでした。一方、その過程で私自身が「産業を生み出す側」になることを意識したことはありませんでした。
しかしある時、これからファッション史にデザイナーとして名を残すであろうCFCLの高橋悠介と出会い、彼と二人三脚でグローバルブランドを創る──そんなことを話し始めたことで、私の人生は大きく転換することになりました。それまでファッション産業にはあくまでクライアントや投資対象の1つとして関わるだけでしたが、彼との出会いを通じて、ものを生み出し、それを事業として世界に広げていく視点を持つようになりました。
ファッション業界においてパリ・ファッションウィーク、通称「パリコレ」は、常に創造性の極致とされ、世界中のブランドが新しいコレクションを発表する場となっています。日本はこのパリコレにおいて、世界で最も多くのブランドを輩出する国の1つです。しかし、欧米のブランドと比べると、それぞれのブランドの事業規模は小さく、長期的に発展するための経営基盤を持つ企業は限られているのが現状です。
また、現在世界で影響力のある日本企業の多くは、数十年前に創業されたものが中心であり、新しい世代の企業が十分に育っているとは言い難い状況です。私は、ファッションという分野、より広義には創造性を軸とした産業において、世界で戦える事業を作る、そして、これから生まれる創造的なアイデアが世界へ羽ばたくための道筋をつけることができればと考えています。
私のキャリアは決して計画通りに進んできたわけではありません。それでも、こうして毎日充実した仕事ができているのは、思いがけない出会いの積み重ねがあったからこそです。これからは、世の中に素晴らしい偶然の種を1つでも多く植えることができたら、そして少しでも多くの創造的な才能が、日本の内外で花開くことに貢献できれば、これほど嬉しいことはありません。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
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松浦 直彦(まつうら なおひこ)
株式会社CFCL代表取締役副社長COO・2005総