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【塾員クロスロード】
伊澤 大介:こころの宿題を大山で

2025/02/10

  • 伊澤 大介(いざわ だいすけ)

    有限会社森の国代表取締役社長・1997商

山陰は鳥取県の大山(だいせん)隠岐国立公園の山麓にある「森の国」というアウトドア施設を運営している。元々は西日本最大級のアスレチックを主とする公園施設ではあったが、私が学生時代や会社員時代を過ごした東京からUターンした際に、改めて豊かな自然に囲まれた地元の魅力を感じ、コンテンツ作りに着手した。スキー場から海までサイクリングで下る「ダウンヒルツアー」や、大山の秘境源流登り「シャワークライミング」(夏)、一面銀世界の雪の林を散策する「スノーシュー」(冬)などの体験プログラムは、いつも参加者の笑顔と歓声であふれている。他にキャンプやドッグラン、スケートパーク、農業体験など、誰にとっても四季折々の大山を楽しめる施設を目指している。

なかでも、夏休みに複数開催される、小中学生を対象とした3日間の大山サマーキャンプ(冬休みはスキーやスノーボード合宿をメインとした「大山スキーキャンプを開催」)は、少年少女たちの現代版〝スタンド・バイ・ミー〟的な体験だ。スティーブン・キング原作の映画さながらに、初めて出会う子どもたちが協力してテントをたて自炊を行い、様々な自然活動に挑戦する。楽しかった日中の活動やキャンプファイヤーとは一転し、夜のテントからは家族を思い出しホームシックになった子どもたちのすすり泣きの声が聞こえてくることも。

キャンプのハイライトは、丸一日かけて挑戦する中国地方最高峰の大山登山だ。参加者にとってはこれまでの人生にないであろう大きな試練になる。迷宮のような深いブナの森の登山道、滴る汗と荒い呼吸、「いつになったら頂上に着くの……」はじめのうちは子どもたちから同じ呟きが数分おきに聞こえてくる。

しかし6合目にたどり着くと、眼下に広がるのはパノラマ状の日本海。そこからは絶景の連続。切り立つ崖下から吹き上がる冷気に包まれ、まるで雲の中を漂う感覚。これが自然の厳しさとすばらしさだと子どもながらに実感する瞬間だ。仲間を励まし自分を励まし成し遂げた大山登山は、「やればできるんだ」という自分への自信に。閉会式では「また登りたい!」「もうこりごり」色々な感想はあるが、一生の記憶に刻まれたであろう思い出は宝物に違いない。「こころの宿題」が必要な少年少女に思い当たるフシがあれば、ぜひ鳥取県大山へ送り込んで下さい。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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