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【塾員クロスロード】
坂本 健二:ファーストワンをめざして

2025/01/23

  • 坂本 健二(さかもと けんじ)

    アウグスビール株式会社代表取締役・1978経

世の中で一番おいしいビールは、工場のタンクから直接飲む「どぶ」と呼ばれる、酵母が生きたままの、出来立てのビールです。大手ビールメーカーは常温輸送に耐えられるよう、製造工程で酵母を除去して出荷しますが、アウグスビールは酵母が生きたままのビールをタンクから消費者の口に入るまで一貫冷蔵体制を実現し、タンクから直接グラスに注いだようなビールを商品化しました。

私は卒業後、キリンビールに入社し、社内留学でMBAを取得し、そのまま米国キリンで販路拡大に当たりました。薄いビールをガブガブ飲むのが一般的なアメリカでは「キリンは苦い」と言われ売上は伸び悩んでいました。コクのあるビールを飲みたくなる場面をつくり出すために、アメリカで寿司屋の開業を目指す若者を支援して、10年間で数多くの寿司屋をつくり、売上増につなげました。帰国後はバドワイザージャパン社で薄い味のバドワイザーの販路拡売を任されました。当時のバドワイザーは学生のビールと認識され、社会人には飲んでもらえませんでした。

そこでボディコンウエアに身を包んだ「バドガール」による販促を全国展開し、社会人から爆発的人気を獲得しました。しかし、アメリカのキリンも日本のバドワイザーも味で評価されて売れたわけではなく、「ソフト先行ハード追随」のマーケティングモデルの結果の売上でした。

社会人25年の節目に独立を決意し、「本来的な、本質の」という意味を持つ「AUGUST」を社名に挙げたアウグスビールを設立し、今では多くのミシュランの星付きレストランが取り扱うようになりました。

誰も手を付けていないことを率先して行う「ファーストワン」の存在であり続けることが自らの存在意義と信じ、7年前からマイクロブルワリーの導入支援を開始しました。酵母が生きたままの出来立てのビールが隣の工場で製造され、物流費はゼロなので、お客様にも安く提供できるビジネスモデルは賛同を得て、全国40社の工場を支援しました。

更なる「ファーストワン」はビールとウィスキーを同時に造るマイクロ・ディスティラリー&ブルワリーです。ビールもウィスキーも原料は同じ麦芽で、製造工程の3分の2は共有できるのです。この融合モデルでビジネス特許を申請しました。そして、これからも世の中に知的ショックを与え続けたいと考えています。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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