【塾員クロスロード】
村上 采:伊勢崎銘仙を復活させる
2024/10/17

明治〜昭和初期にかけて北関東で生産された銘仙の中でも、群馬県伊勢崎市は併用絣(へいようかすり)という高度な技法を持ち、その鮮やかな「伊勢崎銘仙」は、全国の女性に愛されていました。
しかし、戦後の洋装化や職人不足により、その技術は途絶えたまま、現在つくる者はおらず、半世紀以上経っています。
私は伊勢崎市に生まれ育ち、中学生時代に伊勢崎銘仙と出会いました。「地元にこんな素晴らしい着物があったなんて!」と衝撃を受け、それ以来その魅力に取り憑かれました。私が生まれた時にはすでに生産が不可能でしたので、ただその事実を受け入れるしかありませんでした。しかし、大学生の頃には「伊勢崎銘仙を復活させたい」と考え始め、全国の職人や工芸家を訪ねて技術の復活に奔走するようになりました。
2020年、伊勢崎銘仙を現代に蘇らせるためにカルチャーブランド「Ay」を立ち上げました。銘仙のモダンなテキスタイルデザインに魅力を感じ、着物のままでなく、生地として再利用し、アップサイクルによって新たな衣服を開発しました。希少な銘仙ですから、最も美しくなるよう熟考しデザインを行い、1つ1つ丁寧に解体し、クリーニングを経て、群馬県内を中心に国内の工場で生産しています。また、「着物持ち込みサービス」では、お客様が大切にしている着物をAyのデザインで衣服へと仕立て直すことも行っています。
ただ、今ある銘仙生地だけでは、いずれ限界が来ることは避けられません。そこで、既存の生地に依存せず、伊勢崎銘仙の柄をもとに、デジタル技術を用いて復活させたオリジナルテキスタイル「あいのぬの」を開発しました。これは伊勢崎銘仙そのものではなく、銘仙の特徴的な柄をデータ化し、そこに私たちの解釈とデザインを加えた新たなテキスタイルです。テクノロジーを掛け合わせ、デジタルアーカイブとその活用をしていきます。
今後は、伊勢崎銘仙の復活のためリサーチを行いつつ、アップサイクルと「あいのぬの」でデジタルアーカイブ化を進め、伊勢崎銘仙の魅力を未来に繋げていきます。
※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。
- 1
カテゴリ | |
---|---|
三田評論のコーナー |
村上 采(むらかみ あや)
株式会社Ay代表取締役・2023総