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【塾員クロスロード】
本多 諭:青果流通の未来への挑戦

2024/10/17

  • 本多 諭(ほんだ さとし)

    株式会社大治代表取締役社長・1994文

私は1996年から家業を継ぎ、東京の大田市場で大治(だいはる)という青果物の仲卸を経営しています。

国語か社会の教師になりたいと思い文学部に進みましたが、柔道部の活動を言い訳に教職免許すら取得せず、学生生活を終えました。やむをえず、漫然と進んだ家業への道でしたが、厳しいながらもやりがいのある仕事だと、今は実感しています。

入社当時は大田市場だけでも約200社の同業がひしめく中、埋没することなく存在をアピールするには、独自商品の開拓が必須と考えました。そこで市場に入荷する商品以外にも、産地に出向き生産者から直接仕入れを行う産直品の取り扱いを徐々に拡大していきました。中でも「東京野菜」と「有機農産物」は、今では当社の強みと言えるまでに成長しました。

当初は、商品を自ら開拓することや販路を拡大することに楽しさを感じていましたが、東京の生産者と直接対話をする中で、ブランディングや普及拡大にも貢献したいと考え、2016年には「一般社団法人・東京野菜普及協会」を設立しました。

2019年には、東京野菜に企業広告をつけて販売することで、生産者と小売店の希望価格を両立させる企画を実施し、当日のテレビのニュース番組でも取り上げていただけました。

また、近年は日本の農業の維持・発展に繋げるべく、新たな流通の仕組み作りについても積極的に取り組んでいます。具体的には、東京の生産者と企業を直接繋ぎ、従業員やその顧客が農業体験を行い、さらには収穫した農産物を活用して企業価値向上を実現するサービスをスタート。多くの業種の皆様に農業に関心を持っていただくきっかけを作ることができました。

今秋には青果流通の実証実験を開始する予定で、鮮度が一番の価値である青果物を、価値あるタイミングで提供する新たな販売方法についてもテスト運用を始めます。

当社は飲食店との取引も多く、コロナ禍の影響を大きく受け、一時は非常に苦しい状況に陥りました。しかし、この世の中が大きく変革するタイミングに直面することを好機と捉え、慶應義塾に流れる理念でもある「自我作古」の精神を胸に秘め、青果流通の世界で新たな道を切り拓くべく、今後も前へと進んでいきたいと思っています。


※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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