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【塾員クロスロード】
山上晶子:沖縄の廃校という寓話

2024/04/16

  • 山上 晶子(やまがみ あきこ)

    喜如嘉翔学校・山原工藝店経営者・1994法

金のさなぎが蔓草にぶらさがり、フクロウの親子が樹上にたたずむ。窓からの景色は一面の桜。子どもたちが庭を駆け抜け季節の果物をもいではほおばる。地域の精霊「ブナガヤ(キジムナー)」がいたずらを仕掛ける。

沖縄本島北部のやんばるというエリアで、私の子どもたちはこんなおとぎ話のような小学校に通いました。南国の畑から生まれる美しい織物「芭蕉布」で全国に名を馳せる喜如嘉(きじょか)集落のこの素敵な小学校は、村の方針で127年の歴史を閉じ廃校に。そこを活用する事業者を公募していることを知り、私は何かに強く背中を押され、気がつくと手を挙げていました。

20代半ば、都会の喧騒から離れたくなり、陶芸家との結婚を機に栃木県茂木町で田舎暮らしをスタート。2004年に沖縄県大宜味村に移り住み、地域の工芸市の運営に関わりながら、地元の工芸家の作品の大半が都市部の業者へ流出している状況を見て地産地消の工芸品のお店を始めたのが7年前。そして廃校跡地を「喜如嘉翔(きじょかしょう)学校」と命名。事業を2022年6月にスタートしました。

どこかの大手に占有されることなく地域に住む自分たちでここを何とかしたい、ほかにやる人がいないなら自分がやるしかない、空き教室テナント貸しと宿泊ならできるかも、と割と安易に勢いで始めてみたものの、学校という施設はいろいろな意味でスケールが巨大で(敷地、設備、修繕費や維持費、歴史、呪縛など)、当初はなかなか苦戦しました。それでも昨年末にテナントは12部屋満室となり工芸品店も学校内に移転。サウナや本屋、ハンモック、陶芸、木工の工房、写真スタジオ、映画製作、水彩画家、観光法人、ラボなど楽しい面々が集まった面白い施設になりつつあります。地域特有の体験プログラムもあり、宿泊施設も今年中にできる予定です。

奥深い文化と圧倒的な自然がありつつも少子化や濃密な人間関係、硬直した行政など過疎地ならではの課題も抱える地域で、若い世代が面白く働ける土地の魅力を生かした仕事をつくっていきたいと思っています。

神秘的で寓話的な空気がここちよく流れる喜如嘉翔学校で、一時停止していた物語が再び綴られ始めました。こんなことをやってる私自身も「ブナガヤ」にそそのかされたクチかもしれません。塾員の皆さまも、そそのかされに来ませんか?

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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