三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
菊地愛美:全国へ! 赤ちゃん食堂を!

2024/02/16

  • 菊地 愛美(きくち まなみ)

    子育てサポートハウス 助産院mamana.house代表、助産師・2011看

現在、私は神奈川県寒川町で助産院を運営しています。開業時、ニーズを把握するため地域の乳幼児を抱える世帯にアンケートを実施。825世帯からの回答を得ました。その中でコロナ禍も相まって育児の孤独感を抱いている母親が大変多いことを実感しました。

今や育児はSNSで情報が飛び交い、アプリで授乳や排せつを管理する時代。赤ちゃんの泣き声をAIが判読し、児の要求を察知する機能が使えるところまできています。しかし、実際は、そんな情報や数字に不安になり、育児の本質がわからないまま産後うつの一歩手前まで追い込まれている親たちが後を絶ちません。男女問わずに親の産後うつは10人に1人。これが日本の現状です。また、経済的に困窮し、孤立する世帯も少なくありません。

私は助産師の使命として、育児を孤立させることなく、地域で子育てをする環境をつくるため、全国に先駆け、こども食堂の赤ちゃん版「赤ちゃん食堂」を開始しました。

赤ちゃん食堂は日中3時間の親子の居場所で、大人400円、離乳食やミルク、オムツは無料です。地域のボランティアさんの協力のもと、見守り保育や育児の相談ができる他、親たちは温かい食事を味わって食べることができます。寝る、食べるといった生理的欲求が満たされないことも産後うつの要因です。赤ちゃんへの支援だけでなく、親を元気にして育児の活力をつけることが目的です。

口コミで広がり、予約はすぐに埋まる状況でキャンセル待ちの方も大勢います。メディアでとりあげられる機会も増え、物資の支援や寄付が広がり、全国でも同じ取り組みをしてくださるところが増えてきました。

私自身、貧困世帯に生まれ中卒のまま一度社会に出ました。しかし、貧困の連鎖から抜け出すためには資格や学習の機会が必要と痛感し、一念発起して、高卒認定試験を取得。そんな私に大学で学ぶチャンスを与えてくださったのは慶應義塾であり、塾内の奨学金をいただき、無事卒業することができました。在学中は、看護医療学部で学ぶ傍ら、同じSFCの総合政策学部の講義を学び、その中でも社会起業学に出会えたことは、間違いなく私の今の原動力です。

塾員としての誇りを胸に、私たちの取り組みを応援してくださる方々を今後増やし、赤ちゃん食堂を全国へ広げていきたいです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事