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【塾員クロスロード】
石井康介:蔵元のバトン

2023/10/17

  • 石井 康介(いしい こうすけ)

    株式会社石井味噌代表取締役社長・1984商

大学卒業後、株式会社明治屋に就職。国際事業本部に配属され、通関業務、ビール・ワインの輸入・国内販売を担当した。社会人になったばかりの1980年代後半は日本がまだ「元気」な時代。ワインの輸入販売に関しても拡大基調。日本ソムリエ協会公認「ワインアドバイザー」となり、実際の輸入元(海外の仕入先ワインメーカー)担当者とのやり取りや、販売先の各支店、お取引先様や「組織の中での仕事の進め方」を通して学ぶ事が多かった。

1991年4月、お世話になった明治屋を退職。専務取締役として家業である合資会社石井味噌店に入った。観光地でもある信州に在って弊社は国宝松本城から車で10分の立地で観光のお客様が来店される蔵元でもある。大手中堅の猛者がひしめく信州味噌業界にあって「弊社のような小規模な老舗蔵元が存続できるのか」という問いかけには自分なりに「ハードルは高いが不可能ではない」という答えを出していた。欧米のワイン業界や「シャトー」の経営を見てきた者としての判断だった。

6代目社長になったのは2010年。専務就任当時、商材は1種類の味噌と数種類の漬物のみだったが、「味噌」そのものが和洋中に合う万能調味料である事に着目。飲食店事業が付加された今では100種類以上となった。インバウンドが増えつつある昨今、海外から来るお客様にこの味噌発酵食文化をご理解いただくため、レクチャーとテイスティング(試食)、御食事提供の形を構築した事が、農水省「食かけるプライズ」の「食かける賞」受賞に繋がった。食の安心・安全と健康を志向する内外のお客様の期待に応えるためには、チーム力の強化こそ目下の課題だ。

天然醸造法による杉桶仕込の「三年味噌」を醸造する蔵元であると同時に、観光や飲食の業界に携わる者としては、この業界が立地、天候、災害、パンデミックなどに大きく左右される事を忘れず、リスクを分散し「強い財務体質」を構築する事が求められる。本業のみでは心許なかった財務を補うため、遊休地を場所に応じて商業施設や集合住宅にし、地元の「街づくり」に貢献する事もできた。社会人となって39年。気が付くと還暦を超えた自分がいる。専務になった時にイメージした最低限の形がようやく整ってきた。若き「7代目」にバトンを渡すまであと15年は頑張るつもりだ。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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