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【塾員クロスロード】
藤舎英心:バスケ部から邦楽囃子方へ

2023/07/20

  • 藤舎 英心(とうしゃ えいしん)

    邦楽囃子方・2016総

私は「邦楽囃子方(はやしかた)」として、主に、長唄公演や歌舞伎・舞踊公演に出演しています。囃子方とは、歌舞伎の伴奏音楽である「長唄」の演奏において、小鼓や太鼓などの打楽器の演奏(囃子)をする人のことです。歌舞伎の舞台を想像していただき、「後方に並んで演奏している人」と説明すると分かりやすいでしょうか。

今でこそ、囃子方としてこの世界に身を置いていますが、実は大学を卒業するまでは全く縁のない世界でした。小さい頃からバスケットボール一筋で、大学では體育會バスケットボール部に所属していました。

では、どういった経緯で囃子方になったのか。これまでは、ただ目の前のことを一生懸命にやってきただけで、将来のことなど考えたことがありませんでした。しかし、就職活動を機に自分と向き合い、自分には強い「自己表現欲」があることに気が付いたのです。そして、その方法として「音楽」を選びました。中でも、「歌」によって自分を発信したいと思い、歌手を目指すことにしました。

そして、周囲の反対をよそにフリーターとなり、学生時代からのアルバイト先でもあった日吉の喫茶店(喫茶まりも)に住み込みで働かせてもらいながら、夢を追う日々を過ごしました。

そんなある時、「邦楽に興味はないか?」と、慶應義塾の先輩から声をかけられ、興味本位ではじめて歌舞伎を観に行き、長唄の演奏会に足を運びました。邦楽が持つ独特の緊張感や空気感に魅了され、中でも現在の師匠、藤舎呂英(とうしゃろえい)師の演奏に大変感銘を受け、「自分もこんな風になりたい」という強い憧れを抱きました。

それからすぐにお稽古場へ伺い、本格的に弟子入りをさせていただくこととなりました。そしてより多くの経験を積むため、東京藝術大学に進学。藝大を出た翌年には「藤舎英心」という名前をいただき、演奏家としての一歩を踏み出しました。

現在は都内と、地元である群馬県を拠点とした演奏活動に加え、オンラインを用いた子どもたちへの普及活動にも力を注いでいます。

今後は、囃子方としての修行に励むことはもちろん、視野を広く持ち、新たなことにも積極的に挑戦していきたいです。また、将来的には、慶應義塾の学生たちに囃子の魅力を伝えたり、共に新たな物を生み出したりといった活動ができたらとも考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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