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【塾員クロスロード】
神谷凜太郎:なんでもありのビール文化

2023/04/27

  • 神谷 凜太郎(かみや りんたろう)

    別府ブルワリーヘッドブルワー・2019法

とりあえずビール。ビール産業・文化発展に貢献した言葉である一方、近年成長するクラフトビール業界には越えなければならない大きな壁です。私は現在大分県別府市でクラフトビールの醸造を行っています。クラフトビールが好きで、さらに自ら醸造に携わり続けるのは、ビールがとにかく美味しいという理由をおいて他にありません。ただその美味しさは、ビールにしかない多様な体験とそれを生むことが出来る業界の土壌があってこそだと感じます。

ビールの種類はスタイルと呼ばれ、世界で最も消費されているスタイルは皆様がよく飲む大手ビール会社のラガーやピルスナーとされています。しかし、ビールの世界には100を超えるスタイルがあり、それぞれ異なる官能体験を持ち、いつものビールはその一部に過ぎません。例えばベルリナーヴァイセという乳酸菌由来のしっかりした酸味を持つスタイルがあります。ここ数年はこのスタイルをベースにドロドロになるまでフルーツピューレを加えたスムージースタイルと呼ばれるものまであります。他にインペリアルスタウトと呼ばれるアルコール度数が10%ほどのゆっくり飲んで楽しむスタイルもあり、バーボン樽などで長期熟成させブレンドすることで、樽由来の香りと時間と共に生成される重厚なフレーバーを持ち合わせます。

このような豊富な原材料・幅広い製造方法が受け入れられるビール醸造文化は、近年米国でさらに進化し、今のクラフトビールブームを形作るものでもあります。ここ10年以上ブームを先導しているIPA/インディアペールエールも、これまで主流でなかった柑橘香が特徴的な米国産ホップを、過去とは比べ物にならないほどの量で使用したことで、爽やかなフルーツ香と強烈な苦さを持ち、ブームに火をつけました。そして現在一部のクラフトビール醸造所はIPAに取って代わるものを探し、新技術、過去の研究、他の酒造技術、食文化などをもとに常識破りで実験的なビールを作り続けています。

かくなる私もどんなものでも歓迎するこの文化に魅力を感じ、新たなビールを見かける度に驚かされ、好奇心をくすぐられ、まだまだ未熟な自分の競争心を煽られます。好きなものを作るほど贅沢な仕事はありませんが、まだ成長中の産業・文化をさらに発展させる一助となるようこれからも精進していきたいです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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