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【塾員クロスロード】
吉盛真一郎:熱帯の島でのとんだおせっかい

2023/03/14

  • 吉盛 真一郎(よしもり しんいちろう)

    株式会社環のもり代表・2000経

「錯覚の理想」、これは私がサラリーマンとして赴任した熱帯の島の、手頃なサイズ感とかヒトや社会の未熟度が、「きっと俺にはこの国と人を変える〝何か〟ができる」と思わせた、いわゆる勘違いのことです。

今から10年以上も前に、個人的なおせっかいで参画することになったスリランカ国の幻のコーヒー復活活動ですが、そのころは一部の情熱人たちによる理解されない箱庭いじりのようなものでした。それが転んでも転んでも遊び続けたおかげで、その品質はコーヒーの世界大会(IIAC2016)で受賞するまでになりました。紅茶であまりにも有名な国において、逆にその威光を借りたコーヒーがブランドとして成立し始めているという事実はとても痛快なことです。

世界遺産の丘陵地キャンディにつくったコーヒー事業会社と喫茶店を拠点とし、コーヒーの若葉からつくる珈琲葉茶(セイロン・テ・カフェ)などというものを世に送り出せているのも愉快痛快。しかし冒頭にも述べた「錯覚の理想」というものは、やっかいなものです。

この島で私が関わっている従業員や生産組合員はほぼすべて女性たちなのですが、彼女たちが例えば貧しさから救われたさそうに見えたとしても、実はそんなに切実ではなかったりします。むしろ画一的なコンビニエンス(利便性)を追求することで逆に低欲望化を招いている日本人社会よりも、彼女たちの方が豊かさの単純な落とし所を肌でわかっている気がします。救われたさそうに見えるのは、楽に転がり込んでくるお金やモノなら欲しいという、熱帯的な姿勢のせいかもしれません。

ですから、豊かさの取り扱いを勘違いして派手にソーシャルビジネスなどを謳ってこの国に乗り込んでくる方々ほど、肩透かしを食らって冷めてしまうのか、数年後は「祭りのあと」になってしまう事例も多いため、地味でも細く長く取り組みたい私たちも自重、自戒が必要です。現地の人たちと新しい取り組みを行う時などは、とくにそうです。

現地にコーヒー会社を置きつつ、日本でリスクコントロール会社である(株)環のもりを立ち上げたのも、「錯覚の理想」をもって南アジアに乗り込んでくる日本の会社や起業家たちが、宿命のように巻き込まれる危険な罠の回避を支援していくためで、これもコーヒー事業に続く第2のおせっかいであります。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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