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【塾員クロスロード】
須知高匡:自走型ロープウェイによるまちづくり

2023/01/26

  • 須知 高匡(すち たかまさ)

    Zip Infrastructure 株式会社代表取締役社長・2021理工

子供の頃から「乗り物」と「宇宙」が好きだったこともあり、宇宙エレベータのサークルがあるという理由で、慶應に入学し、SPEC(宇宙エレベータ競技会、各大学が垂直にロープを上昇走行するマシンを持ち寄り競い合う)に出場していました。一方で、どこか物足りなさを感じていた私は、最初はジップラインのハードウェアの受託開発をする会社として、この会社を2018年に立ち上げました。

いくつか開発をする中で、宇宙エレベータ開発の実現には多大な時間がかかると感じ、その縦型ロープ自走技術をより早く社会実装したいという思いで自走型横型ロープウェイ「Zippar」の開発を始めました。

最初は慶應義塾大学外の施設を借り実験をしていましたが、1人乗りモデルの実証実験段階になると専用線が必要となり、SFCの鴨池上空にロープを張り、実験をする計画を立てました。現在は12人乗り市場投入モデルの開発を神奈川県秦野市で行っています。また、上野動物園のモノレールの建て替えの公募が来年あるため、第三者委員会組成の準備や出資者の検討を進めています。

我々日本人は今でこそ鉄道やバス、道路に支えられた円滑な交通を享受していますが、戦後の交通状況は交通課題が山積していました。1956年、名神高速道路建設を目的に世界銀行から派遣されたワトキンス調査団の「日本の道は信じられないほど悪い。工業国にして、これほど道路網を無視してきた国は日本のほかにない」と報告される程の状況でしたが、名神高速、新幹線を皮切りとして、日本の交通は現在トップレベルにまで駆け上がりました。

現在、フィリピンやマレーシアは爆発する人口と、脆弱な交通インフラで、まさに昔の日本のような状況です。しかし、今の公共交通システムは高価すぎて、彼らの課題を解決しきれません。Zipparというキロ当たり15億円という比較的安価な公共交通インフラが日本を含めた世界各地の交通課題を抱える地域に導入されることによって、Zipparで公共交通をみんなのものにしたいと考えています。 Zip Infrastructureのミッションは東京中心部のような、どこからでも駅に5分でアクセスできる世界を作ることです。協業や出資などといった形で諸先輩方に応援いただけますと幸いです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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