三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
木村充慶:牛乳観が一変! 放牧牛乳

2022/12/22

  • 木村 充慶(きむら みつよし)

    武蔵野デーリー株式会社取締役・2009総

放牧牛乳をご存知でしょうか。牛乳というと広大な草原を歩く牛を連想される方も多いと思いますが、スーパーなどで販売されている牛乳の多くは牛舎の中で首を繋がれた牛から搾られています。草原に放ち、生えている草を食べる「放牧」は全国的にも決して多くありません。

放牧牛乳に魅せられ、今年6月に東京・吉祥寺に放牧を中心にこだわりの牧場の牛乳を集めた「武蔵野デーリー CRAFT MILK STAND」を親子で始めました。おいしい牛乳というと濃厚で甘いものと思われがちですが、放牧牛乳は逆にあっさりして繊細な味がします。飲むとびっくり。牛乳観がひっくり返ります。

牛乳愛丸出しですが、小さい頃は牛乳嫌いでした。しかも、実家は祖父の代から100年以上続く牛乳屋なのに嫌いという始末です。学校の給食ではいつも牛乳を残していました。

牛乳嫌いが変わったのは、20代後半に父から渡された、北海道・旭川で独学で放牧酪農を始めた「斉藤牧場」の本の影響です。牛と自然の力を生かして、酪農に適さないと言われた山奥に広大な牧場を作り上げた話に感動し、すぐに北海道に飛び、数日間お手伝いさせてもらいました。街が一望できる山奥の急斜面で、牛たちはおだやかに、たくましく歩いていました。作業後に飲んだ牛乳が忘れられません。全く匂いがせず、さらっと飲めてしまったのです。感動してごくごく飲みました。

以降、全国の牧場をまわったのですが、放牧の牛乳はおいしく、牛乳嫌いでも飲める牛乳ということがわかりました。いつか放牧牛乳の店をやりたいと思い始めました。

構想が本格化したのは父親の交通事故がきっかけ。昨年6月、トラック運転中に事故に遭いました。大きな怪我には至らなかったのですが、77歳と高齢のため、商品を運搬する今の仕事を続けるのは厳しいと感じました。ただし、50年近く自営業をやってきた父に仕事を辞めさせるのは簡単ではありません。そこで、運転しなくて済むミルクスタンドを一緒に始めることにしました。

オープンして4カ月、ありがたいことに多くの方に来ていただいています。嬉しいのは牛乳嫌いの人がおいしいと言って飲んでくれること。牛乳離れ、穀物価格高騰など、問題山積みの酪農業界ですが、牛乳の新たな価値を父親とともに発信していきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事