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【塾員クロスロード】
水野衛子:中国のアニメとドラマ

2022/12/13

  • 水野 衛子(みずの えいこ)

    中国文学、映画字幕翻訳家・1981文

大学に入学したのは1977年、中国で文化大革命が終わった翌年だった。漢文が好きで中国文学専攻に決めていた私は日吉で取った必修外のラボ中国語でNHKテレビ中国語講座の陳文芷(ちんぶんし)先生に文革後の最新短篇アニメ『家の中に生えたタケノコ』と『牧笛』を見せてもらった。中国語がまだ聴き取れないので、セリフのほとんどないアニメを見せてくれたのだろう。前者の切り紙のような可愛いらしい絵と後者の美しい山水画のような詩境が印象的で、後に中国映画の字幕翻訳を生業とする私が初めて見た中国映画だった。

あれから40年が過ぎ、中国商務印書館刊行の『中国アニメーション史1922〜2017』を翻訳する機会を得たのは感慨深い。中国のアニメについては初めて知ることがほとんどで、大学1年の時に見た2本のアニメが切り絵アニメと水墨画アニメと呼ばれ、中国だけでなく海外でも高く評価されていることを知った。昨年、字幕と日本語吹き替え版台本を翻訳して劇場公開された2019年製作のアニメ『白蛇:縁起』も水墨画アニメの伝統を感じさせる作品だった。『中国アニメーション史』日本語版は、この11月25日に樹立社から出版されている。

近年、中国映画は製作費が高騰し、日本の配給会社による劇場公開が減り、映画はネット配信、ドラマは衛星放送での放映が主流である。今、字幕を翻訳している11月からBS12で放映中の連続ドラマ『ゴールデン・アイ─黄金瞳─』は、Kポップのアイドル出身の中国人俳優レイ・チャンが主演なので、その人気で買われたのだろう現代ドラマだ。アイドルドラマは気乗りしなかったのだが、骨董品の真贋や翡翠の原石を透視できる眼を持つ青年が主人公で、昨今の中国の骨董ブームを背景に大人の鑑賞に十分耐える作品だった。

長尺な作品の多い中国ドラマの例に漏れず、このドラマも1話40分で56話もあり、週2回の放映なので、ひと月に8話を翻訳しなければならない。でも内容が興味深いため少しも苦にならず、骨董についての蘊蓄を訳すのがとても楽しい。不思議な透視能力を持つ北京大学歴史学科卒の主人公は、清の蒲松齢(ほしょうれい)の怪異小説『聊斎志異(りょうさいしい)』に出てくる、不思議な鑑識眼を持った馮権(ふうけん)という人物の再来とドラマの中で言われていて、そんな話もあったのかと改めて中国古典の世界に触れる日々である。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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