三田評論ONLINE

【塾員クロスロード】
塚田野野子:地図のDNA

2022/10/13

  • 塚田 野野子(つかだ ののこ)

    株式会社東京地図研究社代表取締役社長・1982法

当社は1962年の設立から一貫して地図・地理空間情報に関する業務を通じて社会に貢献し、見えない部分で社会基盤を支えるという使命感と誇りを持っています。

創業者である私の父は地図の地形表現の技術者で戦前の陸軍参謀本部陸地測量部で地形図作成に従事、戦後10数年を経て独立しました。私は幼少期から地形図をはじめ、数メートルもの鉄道図や土地利用図などを身近に見て育ちました。地図好きな人にはまたとない環境ですが、自分には正直「猫に小判」でした。そんな私の転機は2回、大学時代に航空測量会社のアルバイトで地図のデジタル化の一端に触れたこと、そして社会人になり米国へのMBA留学でITマネジメントとGIS(地理情報システム)という概念を知ったことでした。NII(全米情報基盤)構想のもと、空間情報整備の実践が始まり、米国のスケールの大きさと先進性とともに地図の重要性と可能性を感じ大変刺激を受けました。

1994年に帰国し、東京地図研究社で研究職と同時に数年ほど慶應の環境情報学部の訪問研究員として久保研究室に所属しました。広大で先進的なSFCのキャンパスで厳さん(現GIS学会会長)や院生だった古谷さん(現総合政策学部教授)をはじめ、熱気溢れる皆さんとご一緒できたことは大変貴重でした。

塾員として嬉しかったのが2015年3月発行の『慶應義塾大学日吉キャンパスマップ』のお手伝いです。普通部(当時)の太田弘先生からのお声がけで日吉の教養課程で教材として利用されていたキャンパスマップのデジタル化と『日吉学』講座用の教材の素材を作成し、学生時代に気づかなかった日吉キャンパスの豊かな地形や自然を再発見。見えないものを可視化する地図のパワーも再認識しました。

社長となり20数年、技術変革の波の中で当社のビジネスもWebGISや各種ナビゲーションの支援、GISコンサルタント業務など多様化、また、社内の若い世代により当社の代表作である『凸凹地図シリーズ』の開発や『ブラタモリ』への地図の提供など地図のアウトリーチや、当社のルーツである地形表現の特許の取得など、新たな価値を生み出しています。創業から受け継がれている地図のDNAを進化させつつ時代のニーズに応え、また地図の既存の枠を超えた価値を届けたいと願います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

  • 1
カテゴリ
三田評論のコーナー

本誌を購入する

関連コンテンツ

最新記事