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【塾員クロスロード】
関根賢人:アフリカのからあげ屋さん

2022/08/24

  • 関根 賢人(せきね けんと)

    YOOFIN Ltd. CEO・2017政

「おいしいを増やす」ことが好き。自分が感動した味覚を共有して、「え、おいしい!」と相手の食の枠が広がっていくと、心が満たされる。慶應義塾を卒業してから、料理人修業をしたり、昆虫食の会社を創業したり、ずっと「おいしいを増やす」活動をしてきた。

今はアフリカのガーナで、小さなからあげ屋台を営んでいる。ここでは、まだまだ「おいしい」の選択肢が少ない。だから私は、ここで「おいしい」を増やしたい。

屋台を始めると、初めてのスタッフが出勤2日目に失踪したり、契約したはずの土地が占領されたり、仲良くなった子供にお金を盗まれたり、いつだって刺激的なチャレンジが目の前に立ちはだかってきて、アドレナリン放出量が日に日に増していく。それでも、根底に「好き」があるからこそ、異国の地でもなんとかもがくことができている。

振り返ってみると、中等部からの慶應義塾での10年間が、「好き」をとことん突き詰める姿勢を教えてくれた。象徴的なのは、慶應義塾志木高校。前身は農業高校というだけあって、良くも悪くもゆるくてのんびりした空気感が溢れている。

広大な敷地を有する志木の森では、先生たちの授業はとにかく自由だった。1年間沖縄の歴史を学ぶだけ。マックス・ウェーバーの『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』を読むだけ。『秒速5センチメートル』を深掘るだけ。専門的なテーマを好き勝手に話して楽しんでいる先生たちと日々接していると、好きなことだけやって生きる身近なサンプルが生徒の中にどんどん貯まっていく。好きなことを異常に突き詰める姿勢を、先生たちが一番体現しているからこそ、周りと比較せずに自分らしさを許容する土壌が学校全体にあった。志木高内になっている柿を食べて育った私は、いつのまにかそんな志木高色に染まっていったのかもしれない。

あれから早10年。志木高で柿を食べていた高校生は、アフリカでからあげレストラン開業と養鶏場建設に奮闘している。

「小さな屋台」から「アフリカを代表するおいしい会社」へ。これからも異国の地でハードシングスは絶えず降り注いでくるだろう。そんな中でも、自分の「好き」を大切に、独立自尊の精神で思い描く未来を切り開いていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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