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【塾員クロスロード】
町田秀樹:銀行員からオーボエ奏者に

2022/07/12

  • 町田 秀樹(まちだ ひでき)

    オーボエ奏者・1997経

ミュンヘン在住23年です。普通部入学後すぐにオーボエを始め、大学卒業まで生活の大半を音楽に費やしてきました。とはいえ卒業を控え一端の社会人として自立せねばと就職活動に励み、住友信託銀行(現三井住友信託銀行)に入行することができました。その後3年半まじめな銀行員生活を送ることになります。

ところが1999年頃からIT革命の波が押し寄せ、世の中の大きな変化と共に私の心にも嵐が吹き荒れます。“音楽家として生きることが自分の人生ではないか?という思いがムクムクと湧き起こってきたのです。とはいえ世の中そんな甘くないことは百も承知。恩師の勧めもあり、当時第一人者でいらしたN響の小島葉子さんに演奏を聴いていただくことにしたのです。大変厳しいことで有名で、私も叱られる覚悟で出向きましたが“あなたは音楽をやるべき。外国で勉強しなさい”と予想外のお言葉が! その言に従いミュンヘンのリヒャルト・シュトラウス音楽院を受験したところ、当時から最も尊敬するオーボエ奏者であったフランソワ・ルルー教授の、生徒数は3人のみという精鋭クラスに合格することができました。改めて心を決め銀行を退職し、その2日後に楽器とPCと身一つで渡独。家が見つかるまでは友人宅で居候生活という音大生活が始まりました。最初はアルバイトで自活しながらでしたが、ハングリー精神を鍛えるのに丁度よかったようにも思います。3年後にミュンヘン音楽大学の名教師ギュンター・パッシン教授のクラスに席を移し、鬼のように厳しいレッスンを受けて腕を磨くことができたのも音楽家としてとても幸せでした。

現在はミュンヘンのタッシェン・フィルハーモニー、ジューイッシュチェンバーオーケストラの首席オーボエ奏者、また木管五重奏やソロとしての活動もあり、リハーサルと演奏会本番を繰り返す日常です。そんな充実した音楽生活が15年も過ぎた頃、“ドイツで得たものを日本で還元できないか?と思い立ち、“カンマーオーケストラメロディアというアマチュアオーケストラを立ち上げオーボエで共演、指揮をしています。お蔭様の大好評で今夏8月7日にも代々木のハクジュホールで第11回演奏会を予定しています。支えてくださっている皆様への感謝を忘れず、これからも道を極めて参ります。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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