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【塾員クロスロード】
庄司遥:楽都づくり

2022/06/16

  • 庄司 遥(しょうじ はるか)

    HAL PLANNING 代表・2001文

生まれも育ちも仙台の私。命とともに親から与えられたのは音楽でした。しかし私は天才少女でもなんでもなく、高校時に漸く、自分が本当に音楽を好きでたまらないことに気がつくのです。その後音楽学を学ぶため美学美術史学専攻へ。好きだと気付いた渇きを潤すにあまりある程に、首都圏には音楽、美術、伝統芸能、世界中の文化が集い、圧倒的な刺激に満ちていました。

地方都市には、興行として成立する有名人が招聘され、演目も有名曲が優先的に選曲されがちです。つまり、既に誰かがよいと言い、よく売れる結果を約束されたコンテンツばかりが自動供給される……そのジレンマには今なお悩まされます。

私はよく地方都市の音楽事業のあるべき姿を「よき常設展のある美術館」にたとえます。招聘企画は、話題性、新しいもの、一生に一度触れるべき名作、名曲、名演が街にやってくるという意味で重要です。一方で、そこに行けば常に、自分の好きな作品に出会える、有名無名に関わらずよい音楽を聴けて、心動かされるものに出会える環境を創出したいのです。

現在、私は「仙台クラシックフェスティバル」、宮城野区文化センターの室内楽企画「Music from PaToNa」等に企画制作として携わっています。コスモポリタン化した地方オーケストラに集う意欲溢れる奏者たちや、地元出身の内外で活躍する演奏家の力を借り、音楽家と聴衆がじっくりと音楽に向き合える時間と場を生み出すべく取り組んでいます。やがて聴衆は、自分たちが演奏家を支え、聴き育てているのだという気概を持ち始めます。そうした聴衆がいて初めて、演奏家は挑戦的な演目に臨めるのです。公演前の鑑賞の補助となるゼミの開催や、解説の発信など、音楽をより深く味わう機会を増やしています。外から招聘するイベントのある数日間だけではなく、365日、常に豊かな音楽コンテンツに出会える場。そこを基点に、より伝わる魅せ方を創意工夫し音楽家たちと日々相談しながら進めています。

仙台は「楽都」を謳っていますが、何が楽都たらしめるのか……よいホールももちろんですが、よき聴衆のいる場であること、よい音楽家が集いたくなる場であること。彼らが自らの音楽を好きという渇きに潤いをもたらす場を、自分の感性で好きを選べる場を、この街に増やしていけるよう努めています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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