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【塾員クロスロード】
本健太郎:体育会の贈りもの

2022/05/17

  • 本 健太郎(もと けんたろう)

    株式会社小松屋代表取締役、東京合羽橋商店街振興組合理事長・1976経

かっぱ橋道具街は、浅草と上野の中間にある南北800mの商店街で、飲食店が必要な物すべてが揃う世界でも類をみない商店街です。コロナ前はインバウンドで大勢の外国人客で賑わいましたが、主たる取引先が飲食店という事もあり現在は大変厳しい状態が続いております。

その地で私は、小松屋という陶器店を営んでいます。創業は明治41年、100年を超えてかっぱ橋で商売をしており、現在東京合羽橋商店街振興組合の理事長という重責もまかされています。商売も組合運営も、このコロナという大敵に打ち勝つべく苦労しています。

しかしこの困難な時代を乗り越える自信が私にはあります。慶應義塾体育会出身という強い自負と思い入れがあるからです。私は体育会剣道部で学生生活を過ごしました。当時剣道部は全日本学生剣道大会で優勝し、史上最強の時代といえました。監督は岡田睦夫氏、橋本龍太郎元総理が入学した時の主将であり、橋本先輩を強引に剣道部に入部させたという有名な話があります。部員に対しては生活習慣や服装の乱れに厳しく、学生服の下は白いシャツ、勝負する時は白い下着をはけと、当時は訳がわかりませんでしたが今になれば何となく理解できます。剣道の技というよりむしろ精神的な心構えや慶應剣道の伝統を教えられました。小泉信三元塾長のスポーツが与える3つの宝、1.練習は不可能を可能にする 2.フェアプレーの精神 3.生涯の良き友を得るという事も学びました。若くして父を亡くし今後の商売について不安な時、監督の助言やこの3つの宝物の話によって助けられました。

昨年三田の山食がコロナ禍で存続の危機となり、クラウドファンディングを行った際、小松屋で作っているカレー皿が返礼品として選ばれました。その時も岡田監督からは、自分の仕事で慶應の文化である山食に貢献できるなら気合を入れろと言われ、4000枚を超える量を短期間で作成し、皿の裏に「感謝山食」のマークを入れて納品しました。この支援金には数多くの体育会出身者の協力があり強い絆と愛塾心を感じました。体育会を通じて人が人を思い、卒業後も各部が早慶戦勝利を念じ心を通わす、素晴らしい人間関係が構築されています。体育会からの贈りものでこれからの人生、一生懸命フェアプレーの精神で頑張りたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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