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【塾員クロスロード】
樺山晴子:オペラの魅力

2022/04/20

  • 樺山 晴子(かばやま はるこ)

    ISMPP資格認定委員会ディレクター、メゾソプラノ(二期会正会員)・2001政

「なぜ大学を卒業して声楽家を目指したのか」という問いに正面から答えるのは難しい。私にとって歌は日常にあるもので、その延長上に声楽家としての活動があるに過ぎない。オペラ研修所に通っている時も、シチリアでのマスタークラスの時も、妊娠7か月でオペラの舞台に立っていた時も、会社員だった。今でも、声を掛けていただいてはコンサートに出演している。いわば副業声楽家といったところだろうか。

そう、私の人生は常に歌と共にある。父は『ヨーデル入門』という本を書いていたし、母はラテンを歌っていて、私自身は物心がつく頃には姉とヨーデルを歌い、聖歌隊にも所属していた。確か卒業文集での夢は、「オペラ歌手か歌のおねえさん」だったが、その時にどこまでオペラを具体的にイメージできていたのか定かではない。というのも、オペラを初めて自分の意思で観たのは、仕事でサンフランシスコに住んでいた25歳の時で『セビリアの理髪師』だったが、喜劇のはずなのによくわからず途中で寝てしまったのだ。そんな私が二期会オペラ研修所に通うようになって色々なオペラ作品に出会い、今ではすっかり魅了されている。オペラが古典芸能であり、予習してこそ楽しめることを知ったからだ。

一般的に言われるオペラの魅力は、音楽、演劇、舞台が合わさった総合芸術であり、アリアと呼ばれるソロの歌だ。だが、オペラの魅力は何と言ってもアンサンブルだと思う。例えば、恋人たちが入隊することになった、と聞いて悲嘆にくれる姉妹、その横で様子を窺う恋人たち、それを仕掛けた狸親父。それぞれの人物が時に相反する別々の思いを各々のメロディーで歌い、それがオーケストラと一体となり、1つの曲を形成している。また、アンサンブルは、『カルメン』などのフランス系作品でしかなかなかヒロインにはなれないメゾソプラノの腕の見せどころでもあることも付け加えておきたい。

ちなみに一番印象深い作品は、W.A.モーツァルトの『コジ・ファン・トゥッテ』である。オペラデビューがこの作品のドラベッラ役だったこともあるが、それ以上に慶應義塾コレギウム・ムジクム・オペラプロジェクトにオーディションで合格して、現役の塾生のオーケストラと藤原洋記念ホールで共演できたことは、塾員冥利に尽きる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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