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【塾員クロスロード】
山口太輔:半学半教で都市対抗初優勝

2022/04/11

  • 山口 太輔(やまぐち たいすけ)

    東京ガス硬式野球部監督・2000商

創部94年目の初優勝。東京ガス硬式野球部は昨年12月に東京ドームで開催された第92回都市対抗野球大会で悲願の日本一を達成しました。私は監督として4年目を迎えますが、成功よりも多くの失敗をしてきました。その失敗を成功の糧にして日本一に駆け上がる、その思いだけは持ち続けていました。

社会人野球はアマチュア野球の最高峰と言われます。2つの大きな大会である都市対抗野球大会と日本選手権大会への出場、日本一をかけて大の大人が熱い戦いを演じます。東京ガスは、両大会において優勝はありませんでした。その歴史を変えたい。しかし、監督に就任した2018年に都市対抗に出場しましたが、19年、20年は予選で敗退。壁を破れない時期が続く中、都市対抗で優勝経験のある塾野球部の先輩方を訪ねて回り、常勝チームの方針、心構え、戦い方などを学びました。皆さん個性的で戦術のこだわりは異なりましたが、共通していたのが会社、野球、選手に深い愛情を持ち、選手に自信を持たせる方法を本気で考えていることでした。

不退転の決意で臨んだ昨年からは塾野球部の先輩でもある布施努スポーツ心理学博士に協力して頂きました。結果的には監督である私が一番影響を受けたのかもしれません。なかでも「役割性格」という考え方。オリジナルの性格はそのままに、与えられた役割の性格を演じることです。転機は昨年6月、日本選手権予選での大敗でした。私は覚悟を決めて選手たちに告げました。「本気で日本一になる気がない選手は会社に戻してやる」。誰も来ませんでした。今までの「情の監督」から、勝つために「非情の監督」を演じたのです。各選手の役割を明確にし、それを演じきるために厳しい要求をすることで選手たちが弱い部分に向き合い、苦手な練習にも取り組むようになりました。9月の都市対抗予選では3年ぶりの代表権を東京都第一代表で手にし、一気に頂点へ駆け上がりました。

東京ガスの優勝により過去15年の都市対抗での塾出身監督の優勝は8回、勝率5割以上となりました。2007年の印出順彦監督(東芝)を皮切りに、大久保秀昭監督(ENEOS)、堀井哲也監督(JR東日本、現・体育会野球部監督)、橋口博一監督(大阪ガス)と私です。微力ながら半学半教の精神で今後の野球界に貢献したいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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