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【塾員クロスロード】
國廣純子:地域協同の経験値を重ねる

2022/03/22

  • 國廣 純子(くにひろ じゅんこ)

    タウンマネージャー(青梅市・あきる野市五日市・豊島区池袋平和通り)・1999経

東京都青梅市、都市と農村の要素を併せ持つ人口13万4千人のまち。中心市街地のタウンマネージャーとして着任し、今年で10年目になる。恵まれた自然環境、山も川も鉄道駅から徒歩圏である一方、もと宿場の骨格をのこす町。着任当時は典型的な衰退の様相をみせていた。開業の目的地から外れ、賃貸に出されない空き店舗が増加。主要な都市機能も東部に分散しており、山川の迫る狭小な丘陵地という地形からしても、コンパクトシティ再現は似合わなかった。ここに適する新しい経済をいかに構築し、都市空間を構想するのか。脳に血が駆け巡った。

当初、地元の行政・商工会議所の担当メンバーは市街地の潜在力に懐疑的だった。土地勘のない自分は現状の市街地に不足する機能を補う実証事業を繰返し実施し、来街者分析を重ねて可能性を示そうと提案。メンバーには市内の多くのイベントから集客のホットスポットがどんな傾向で現れるのか情報共有してもらい、ビアガーデンや映画上映など様々な企画を仕掛けてはデータを取り続けた。次第に我々は市街地が自分たちの手で意義あるものに変えられる、という実感を強めていく。

光をつかみかけていた2015年1月、駅前唯一のスーパーマーケットが建物係争で閉店。行政は代替地提供や仮設スーパー設置を水面下で複数の事業者に打診してくれたが良い返答はなかった。4月に「株式会社まちつくり青梅」設立。最終手段として予定していたマルシェは9月から定例化。固定客が着実に増えていく。一方、難航していた空き店舗調査や物件オーナー交渉も徐々にすすみ、翌年2月からアキテンポ不動産の見学会がスタート。初回は50名の参加があり、それまでに苦労して開拓した6物件を上回る賃貸申込みに一同驚いた。その後もオーナーへの働きかけと見学会を定期的に実施し、当事業を通じた開業は30件、誘発も含めた中心市街地全体の開業は120件に到達しようとしている。

多くの人にとって、まちづくりとは多様な意味がある。我々にも、まちなか居住や開業だけでなく、今では教育や文化振興など様々な相談が舞い込む。中心市街地での協同事業は利害調整が多く発生するタフな取組みだが、公民連携による地域の協同経験値は未来のまちづくりの基礎になると、今では確信している。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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