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【塾員クロスロード】
左伴繁雄:プロスポーツビジネスに従事してみて

2022/02/11

  • 左伴 繁雄(ひだりとも しげお)

    株式会社カターレ富山代表取締役社長・1979政

サッカーJリーグに属するクラブの経営を務めてもう20年になります。大学卒業後に就職した日産自動車には22年間の在籍でしたので、私のキャリアの半分近くはスポーツビジネス畑ということになります。

日産を離れ初めて経営職に就いたクラブが日産子会社の横浜マリノスでした。そこでは何度か年間チャンピオンになりながら会社を6年かけて大きくして、ひと段落したところで、同じ神奈川県内にある湘南ベルマーレに6年、そして静岡県にある清水エスパルスで5年経営職を務め、現在のカターレ富山は社長2年目となります。

Jリーグに来てからは、監督や選手と同じように、有期雇用契約でほとんどが1年契約でやってきました。日産時代と比べるとなかなか緊張感があり、しびれる雇用形態を選択してしまいましたが、今から思えば常に崖っぷちで仕事をしてきたことで、かけがえのない経験や同志を持つことができたと思っています。

Jクラブで仕事をしていますと、トップチームの勝った負けたや優勝、昇格、残留争いが世間の関心を引く傾向が強いと感じています。確かにスポーツニュースや新聞等のメディアで取り上げられる内容は、こうした戦績に関わることがほとんどです。また、会社の経営も勝てば入場者収入やグッズ収入は伸びますので安定した右肩上がりを描いて行きます。逆に負けが込んでくると成長のスピードが鈍ったりします。この現象はスポーツビジネスの世界に於いて抗うことはとても難しいことです。

但し、最近では子供達のためのサッカースクールや、ご高齢の方々や障がいをお持ちの方々を対象にしたさまざまな取り組みが、地元企業に評価されて多くの協賛をいただけるようになってきました。それだけ日本企業も社会貢献意識が成熟してきたのかなと嬉しく思っています。

勝負に勝つことも、試合以外のクラブ事業を通じて地域の方々と楽しく過ごすことも、経営者の私からすれば同じ重みがあります。「この街にカターレ富山があって良かった」こう地域の方々にお認めいただくことが、この職種で最も大事なことだと思っていますので、勝負に勝つことは目的ではなく方策。本当の目的は街の日常に潤いを与えてこそだと思っていますし、そうした信念がなければ、この仕事は長くは務められないなとも強く感じています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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