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【塾員クロスロード】
深井喜翔:後継ベンチャーとカポック

2022/01/25

  • 深井 喜翔(ふかい きしょう)

    KAPOK JAPAN 株式会社 代表取締役、双葉商事株式会社取締役・2014環

私は現在、大学時代に憧れていた「社会性と事業性の両立を狙うベンチャービジネス」に打ち込んでいる。具体的には、カポックという木の実の綿を使い、植物由来のダウンウェアを作っている。

今回は、そんな私のアトツギとベンチャーの両面からの話をお届けする。湘南藤沢キャンパスに通っていた時、社会起業家という言葉が生まれ、諸先輩方の華々しい活躍に胸を躍らせ、「いつかは自分も社会課題に取り組むビジネスがしたい」と、毎週の研究会の輪読と発表に励んだ。

だが社会に出た途端、実力もない私は利益追求型のビジネスに翻弄された。その後、家業であるアパレルメーカー、双葉商事に入社。祖父、父と共に家業を盛り上げようと尽力したが、大量生産大量廃棄を前提としたアパレル産業構造を深く知れば知るほど、社会性と事業性の両立は困難なものであることを知った。

そんな業界の当たり前を変えるべく、生産し続けることができる持続可能な素材を探していたところ、カポックに出会い、「これだ!」と確信した。木の実由来のため、木を伐採する必要もなく、羽毛のように鳥を傷つける必要もない。機能コストという事業面も素晴らしい。このカポックとの出会いから、私の人生は大きな変化を迎える。

2019年10月、カポックを軸としたブランド、KAPOK KNOT を設立。受注生産型で進めるクラウドファンディングでスタートし1700万円以上の支援、多くの賞をいただいた。消費者にも生産者にも地球環境にも優しい服作りが評価を得た。私はこのブランドを世界に広め、「ファッションを楽しむこと」と「未来について考えること」が両立できることを証明すべく、老舗企業のアトツギでありながらベンチャーとして起業した。カポック農園との連携や研究開発を加速するためだ。

ブランド立ち上げ時から、支えてくれているデザイナーは大学の同級生、他にも多くのメンバーが塾員であり、諸先輩方には多方面から力をお借りしている。学生時代に憧れた先輩、マザーハウスの山口さん、山崎さんとお話できた感動は今でも忘れられない。父も姉も塾員であり、その2人の後を追い塾員になれたことは人生の大きな契機だった。

この恩返しは、これからのKAPOK KNOTの成長でお届けすることにする。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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