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【塾員クロスロード】
漆畑充:ぶれない想いは現実になる

2021/12/11

  • 漆畑 充(うるしばた みつる)

    株式会社Crosstab 代表取締役 CEO・2005理工、2007理工修

学生時代、漠然と数理科学で飯を食べていきたいと考えていた。しかし落ちこぼれ数学徒であった私には研究者になるほどの才能もなかったし、数学教師も柄ではない。一般企業でそれを活かす道を探したが、思いのほか狭き門であり、秋口まで一社も内定が出ていない状態だった。落ちこぼれ数学徒の目論みは甘かった訳だ。ウェブからの一括エントリーを諦め学内の求人案内で見つけた、金融データ分析の会社に応募し採用される。この後世界はリーマンショックによる金融危機に陥り、その数年後にビッグデータブームが起こった。同時に数理職業人の花形が金融工学からデータサイエンスに移り変わっていった。人間万事塞翁が馬である。

それから約10年後、データ解析を事業とする会社を立ち上げた。会社員としての仕事が嫌だった訳ではないが、当時所属していた会社の理念と自分のそれにずれを感じ始めていた。世の中の会社を見渡しても自分の目指す理念と合致するものはないように感じたため自分で起業した。弊社は数理科学を道具として社会の問題を考える。だからこそ数理とは関係ないことも一生懸命やる。例えばお客様のデータを見る前にこの裏側にあるストーリーを理解する。そのためには店舗に行ったり実際のお客様の営業を見たり、データ解析という仕事からは想像できない地道な作業も厭わない。また弊社は新旧様々な技術をよく学び、知っているが、その技術自体を目的にすることはない。社会やお客様の課題に必要十分である技術を採用する。人や社会と数理科学という一見二律背反に見える関係を適度に調和し価値を提供する、これこそが私の描いた理念である。

大学院を修了してから約14年、怠けながらも勉強を継続してきた。そのおかげかどうかは分からないが、データ解析の専門家としてお客様から認められるようになってきた。数理科学で飯を食べて行きたいという漠然とした想いが現実となったのだ。このように自分本位の想いは人や社会の課題と調和させることで理念に変わり、それが行動となり現実になる。さて、そう考えるとある一時点での能力の優劣は問題ではなく想いの絶対量が重要となる。小さければ小さい場所に、大きければその逆に納まる。

あなたの想いはどうだろうか?

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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