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【塾員クロスロード】
大村理恵子:時空を架け渡す建築展

2021/10/22

  • 大村 理恵子(おおむら りえこ)

    パナソニック汐留美術館学芸員・1992文

御茶ノ水の聖橋は、三路線の鉄道交差が撮影映えする人気のスポットだ。日本初の建築運動である分離派建築会の一員、山田守がデザインを担当した1927年完成の復興橋梁である。「分離派建築会100年」展では、鮮赤の丸ノ内線新型車両が写り込んだ写真で聖橋を紹介した。トレーシングクロスに尺寸で精緻に描かれた図面は、当時最先端の力学の現れとおぼしきパラボラアーチが、実はコンクリートの塑性を活かした彫刻的表現であると明かす。建築展では写真や図面、美術作品まで、様々なものを集め建築に迫る。

一方、今夏、フィンランドの近代建築家エリエル・サーリネンの展覧会はパンデミックの影響を受け、一部展示作品は複製もやむなしという苦渋の決断をした。さらに美術品輸送に随行する学芸員(クーリエ)も飛べず、ウェブ会議でヴァーチャル・クーリエなる手段をとった。会場は、フィンランドの白い湖をイメージし建築家が設計した。卒業直後に勤めたワタリウム美術館の現代美術の展示で、そこにしかない美を共有することを体得した。

2018年の「子どものための建築と空間」展では、著名な建築家による学校や幼稚園の名建築から「冒険遊び場」のような小さい建築までを、都市や次世代育成といった広い視野から紹介した。

パナソニック汐留美術館はフランス近代の画家ジョルジュ・ルオーの作品を収集し、小ぶりながらも正統派を自負する。これからもコレクションの幅は広がりそうだ。

眼光紙背に徹すという。絶えずものを見て感動し昇華できる良い眼を持つことは、学芸員にとって大切だ。建築展の役割は建築の紹介や見方の提示にとどまらない。優れた作品や作り手たちの思いが重なり、ひとのためのデザインとなる。ひとと社会と美の関わりを建築展は伝える。ある建築史の泰斗は、「建築を含め芸術の面白さ、奥深さを発信し続けていくように。生きづらい世の中だからこそ、人々は生きる意味、つながることの意味、理不尽なことを受け容れざるを得ない理由を求める。芸術ができることがあるはずだ」と言われた。

仕事を続けるなかで、お互い情報を交換し次につなげて、建築展を盛んにしていこうという交流にも恵まれる。皆様の協力の下、美術館を盛り上げていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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