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【塾員クロスロード】
三枝孝臣:手のひらに映像をのせて

2021/10/12

  • 三枝 孝臣(さえぐさ たかおみ)

    C channel 株式会社取締役、株式会社アブリオ代表・1989経

「なぜ縦型動画なんですか?」

6年前、C channelという「動画配信」の会社を起業した時多くされた質問だ。映像は映画が始まった時から「横画面」というのが常識だった。

私はそれまで25年間日本テレビ放送網に勤め、バラエティ、ドラマ、情報番組と数々のテレビ番組を立ち上げてきた。

2011年「ZIP!」という朝の情報番組を責任者として立ち上げた頃、テレビマンだった私にとって、スマホの急速な普及とテクノロジーの変化はとても脅威でかつ魅力的に見えた。

「これからは映像を持ち運んで見る時代になるかもしれない」その感覚から「ZIP!」では「moco’s キッチン」など、番組を細切れにしてそれを放送直後にネットで配信した。家の続きを通勤通学途中に見てもらうためだ。当初は猛反発を社内外から受けたが、テレビ番組は放送だけで接触する時代ではない事を感じていた。そして、スマホで映像を見るベンチャー企業を立ち上げる事になった。

C channel は女性雑誌の動画版だ。当初は苦労の連続。視聴数も伸びずいつ潰れてもおかしくない状態で、心身共にヘトヘトになった。

そんな中、鉱脈が見つかった。「ヘアアレンジ」と「料理」の早回し動画だ。雑誌では「プロセス」が表現されない。料理の工程や、髪をアレンジする過程は圧倒的に動画がわかりやすい。2017年には世界で6億再生という数字まで一気に伸びた。

スマホは手になじむ為に縦長だ。そして人間の身体も縦型だ。モナリザも浮世絵も「縦型」なのは人物を表現するにはその方が相性がいい。女性のライフスタイルを中心にコンテンツを描くサービスには縦型が上手くハマり、その後冒頭の質問をする方は1人も居なくなった。

翻って2021年現在。街中で、スマホで動画を見ている人々を頻繁に見るようになった。

コンテンツとテクノロジーは常に鶏と卵の関係だ。リュミエール兄弟がパリで映画を上映してからこの2つは追いかけっこをしながら発展していった。

これからまた新しいテクノロジーが生まれるたび新しいコンテンツが生み出されていくことだろう。しかし、その時にそのテクノロジーが人々の心を捉えるのかどうかは、コンテンツ次第。想像こそが創造の礎となるのではと私は思っている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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