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【塾員クロスロード】
木下紫乃:スナックでキャリアに彩りを

2021/08/31

  • 木下 紫乃(きのした しの)

    株式会社HIKIDASHI代表取締役、「スナックひきだし」紫乃ママ・1991文、2015KMD修

1991年に文学部を卒業したものの、仕事も居場所も転々、根無し草の人生に我ながら呆れていた頃、ひょんなことからメディアデザイン研究科に45歳で入学することに。そこで出会った若い人たちのみずみずしい発想や可能性、それらに感動を覚えた一方で彼らと話す中、いかに我々親世代の古いままの価値観が彼らを縛っているかに気づいた。

卒業後、直近までいた人材開発会社の経験と大学院の学びを活かし、若きリーダーの育成支援をしたいと考えていたが、思い直した。私がやるべきことは、彼らの足かせになっている我々中高年世代の挑戦を支援することだ、と。大学院卒業後、年齢や性別にかかわらず、人の強みをひきだしたいとの願いを込め「ヒキダシ」という中高年のキャリア再支援を柱とする会社を立ち上げた。

しかし、会社を立ち上げたものの「中高年こそこれからのキャリアを考えよう」などとセミナーを開催しても、人は集まらない。

そこで思いついたのが「スナック」だった。そう、我々世代はセミナーより飲み会だ! と。飲み屋で本音を話し、繋がりを作ってきた世代。だからいっそこれからの働き方、生き方を考える場所も、セミナーではなくスナックでいいじゃないの。逆張りだった。そして私のスナックは夜ではなく、週に1日の昼スナック。友人の店を借りる事情から、場所が空いている「昼」にしたという、やむをえない事情からだった。

平日昼間、週1日だけ、1人でも来たらいいと思っていた昼スナック。早5年近く、人が人を呼び来店者は延べ2千人を超え、いまだ毎週老若男女様々な人が訪れてくれる。

スナックにはママというハブがおり、そこを起点に、繋がっていなかった人と人、コトとコトが本音で繋がれる。それこそがこれからのキャリアの鍵なのだ。

いまや本業の企業研修や、コーチングの場面でも、スナックママとしての役割を果たすことで、参加者が本音で語り、一緒に前に進む仲間を見つける支援をしている。

人は誰もが自分ならではの「ひきだし」を持っている。それをお互いに使ったり、入っているものを貸してあげたり、そんなことができる場所や仲間を見つけられたら、これからの人生も楽しくなりそうじゃない? それが私が作る「スナックひきだし」の役割だと思っている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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