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【塾員クロスロード】
佐藤太亮:二つの混沌から最高のお酒を醸す

2021/07/21

  • 佐藤 太亮(さとう たいすけ)

    haccoba, Inc.代表取締役CEO・2015経

haccoba-Craft Sake Brewery-(はっこうば)」は、クラフトビールのような自由な醸造スタイルにもとづく日本酒をつくっている。厳密に言うと日本酒(清酒)ではなく、「その他の醸造酒」というジャンルに区分される。

そもそも日本でお酒をつくるには免許が必要である。さらに、日本酒をつくる免許は現状新規参入のプレイヤーが取得することはできない。

そのため、国内で日本酒の酒蔵をはじめる方法は大きく2つ。1つは事業承継で既存の酒蔵を継ぐこと。もう1つは、私たちのように「日本酒以外の免許を活用して、日本酒の製法のお酒をつくる」こと。

「その他の醸造酒」というジャンルには、文字通り特定の酒類には括られないカオスさがある。

私たちがつくるお酒は、米と麹を使う日本酒の伝統製法はそのままに、発酵過程でフルーツやハーブなどを加えて、味わいや香りの違いを楽しむ。「それは日本酒なのか」そんな問いすら浮かんでくるが、実はむしろ日本の発酵文化の源流に近づくのではないかとすら思っている。かつて酒づくりに免許が必要なかった頃の日本では、各家庭で米や麹以外の原料も自由に用いて酒づくりを楽しんでいたからだ。そんな自由な時代の発酵文化を追究することで、最高の味に辿り着くのではないかというロマンを追っている。

もう1つのカオスが、酒蔵の拠点である「福島県南相馬市小高区」という地域。十年前の東日本大震災に伴う原発事故の避難で一時人口がゼロになったまちである。

暮らしが営まれていない期間が数年間あったまちは、生活や文化がリセットされてしまい、今まさに地域の方々が一歩一歩丁寧に営みを再開している段階にある。

「ゼロになったまち」は混沌とした状況ではあるが、見方を変えれば「自分たちが暮らしたいまちを、自分たちで開拓できる」、現代におけるフロンティアでもある。

そんなまちで、日本の文化や日本人の美意識を形作ってきた酒蔵をゼロからはじめるというチャレンジをしている。

この土地から、自由な醸造スタイルの「最高に美味しいお酒」を発信していくことが、世界中の人にとって「発酵文化」や「気候変動・エネルギー課題」を身近にしていくきっかけになると信じている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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