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【塾員クロスロード】
志村 祥瑚:思い込みの呪縛を解け

2021/06/11

  • 志村 祥瑚(しむら しょうご)

    精神科医、マジシャン・2018医

あるときはラスベガス世界大会優勝経験のあるマジシャン、あるときは悩める人を救う精神科医、またあるときは2020東京五輪の新体操日本代表メンタルコーチ。

「人が悩むのも、マジックでだまされるのも原因は同じ。それは『思い込み』」。その信念のもとに、患者はもちろん、伸び悩むアスリートも「思い込み」からの解放をマジックで手助けする。

日本体操協会の山﨑浩子・本部長に依頼され、2017年から代表チームの指導に携わる。午前中はひたすらマジックを披露し、「人はいかに思い込みに左右されるか」を認識させ、午後は選手の間違った思い込みを指摘し、「フォーカスすべきなのは、コントロールできない結果や成功ではない。自らの行動だけ」と説いてきた。その結果、ミスを恐れていた選手が明らかに変わり、チームは19年世界選手権で44年ぶりとなる団体総合銀メダルに輝いた。

かつては自身も「思い込み」に囚われていた。

医師の家系に生まれ、「自分は医師になる以外ない」と思い込んでいた。

その一方で、趣味のマジックにのめり込んだ。

塾高でも奇術部に所属し、「勉強しろ」という親の言葉は無視して1日8時間、トランプをいじっていた。卒業後、医学部に進んだものの、マジックをしすぎて留年。「人生終わった」と思ったものの、マジックで見返してやろうと決意し、UCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)に留学。ハリウッドの「マジックの殿堂」に通って修業を続けた。

帰国後、2012年のラスベガスのジュニアマジック世界大会に両親の反対を押し切って出場。優勝したものの、その後のことを考えると素直に喜べなかった。医学部を辞めてマジシャンになる勇気はなかったからだ。そんな時、図書館で精神医学の本を読んだら「思い込みが自分の視野を狭めている」とあって「これ、マジックと同じだ」と思った。

マジシャンは観客の思い込みをコントロールするプロ。ならばマジックを見せて人の思い込みを解くことができるかもしれない。そう思ったら、一気に道が開けた。

マジックではご法度の「タネ明かし」も、人生を前向きに考えられるなら治療に活かしたほうがいい。その熱意に、タネも仕掛けもない。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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