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【塾員クロスロード】
池田 理沙子:踊りは瞬間を永遠にする

2021/03/19

  • 池田 理沙子(いけだ りさこ)

    新国立劇場バレエ団ファースト・ソリスト・2017法

眩しいほどの照明の中、不思議な緊張感を纏ったステージに立ち、お客様からの拍手の音が広がる世界は、幼な心にも中毒性を感じるものでした。

初めてバレエに触れたのは4歳の時。発表会で舞台に立った時の踊る楽しさと高揚感に魅せられ、すぐにとりこに。中等部からの慶應義塾での10年間、学業とバレエの両立への理解・応援をして下さった先生方や友人達には深く感謝しています。

女子高の時にスカラシップ留学で行った欧州のバレエ学校で突きつけられた、同世代の子の生まれ持った圧倒的なスタイル・大人びた表現力。強い衝撃を受けたのを鮮明に覚えています。その中で絶対に埋もれてしまわぬよう、テクニックだけは人よりも何十倍も努力して自分の強みだと言えるくらいになるまで、ひたすら稽古に励む毎日でした。

大学在学時に入団した新国立劇場バレエ団。入団後すぐ「シンデレラ」の全幕主役をいただいたのですが、全幕作品が初めてだった私は言葉では表せない不安とプレッシャーに押し潰されそうでした。この作品の振付家フレデリック・アシュトン独特のステップやポジションなど、多くの決まり事を身体に入れ込むだけで精一杯。公演を終え、周りからの厳しい声や自分自身で感じた不甲斐なさは思い出しても辛いですが、この経験こそがどうすればお客様に感動を届けられるか、自分自身をどう魅せていくか、深く考える原動力となり、今1つ1つの舞台に臨んでいます。

入団して4年経ち、役への向き合い方や舞台での在り方、身体の使い方を自分の中で落とし込み、踊りの持つ可能性を広げていっています。それでも次々と出てくる新たな課題に、終わりのないバレエの魅力を感じています。

新国立劇場バレエ団の吉田都芸術監督は、今コロナ禍で難しい状況下だからこそバレエの魅力を新しいアプローチで日々発信して下さっています。私自身も微力を尽くし、バレエという総合芸術の必要性を1人でも多くの方に伝えたい。

「人の心を動かす人間でありなさい」。中等部の恩師からいただいた言葉です。今でも舞台に立つ前に必ず思い出し、観て下さる方々と同じ時”を共有できる幸せを噛み締め、自分自身を鼓舞しています。

踊りが1人でも多くの方の心に永遠に生き続けることを願って。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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