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【塾員クロスロード】
中山 佳香:記憶を描いていくこと

2021/02/22

  • 中山 佳香(なかやま よしか)

    映像監督・2019総

私は塾を卒業後、映像監督として、ミュージックビデオやCM、映画などの監督をしています。

小さい頃から「映像」が好きだった私は、小学校高学年の頃、初めて持った携帯電話で、暇さえあれば家族や親戚、友達の動画を撮りためていました。当時私の携帯電話は動画を15秒しか撮ることができなかったため、短い尺の中でオチをつけて小さな話を完結させるのが好きでした。

小学5年生の夏、まだ若かった大好きな祖父が突然亡くなりました。祖父の、日常の何気ない行動が撮影された私の15秒動画たちは、生前最後の動く彼の姿となりました。

その時、なぜ自分が親しい人たちの動画を撮影することにこんなに情熱を向けていたのか理解しました。その時間が特別に愛おしかったからです。その人の肉声や姿を記録することによって、その人と自分が確かにそこに存在していたことを証明したかったのです。今はもう姿形は無くなって小さな携帯電話の中に閉じ込められてしまっていても、少なくとも映像を再生することで視覚と聴覚だけでなく、その記憶、空気、肌、匂い……、ありとあらゆるものを追体験することができます。それは実際にその場にいた私だけではなく、見る人それぞれが映像という記憶の共有を通して追体験し、想像を膨らませることができます。そんなところから、映像業界を志すきっかけは始まっていたのかもしれません。

映像監督を目指すことになった契機は、中高6年間演劇部に所属し、大学3年次に映画、演劇に関わる仕事をしたいけれどどのように関わればいいかわからず進路に悩んでいた時、尊敬する映画監督に「自分で撮ってみれば」と言われたことです。この一言によって、今の私がいます。

私が作品を制作する際に心がけていることは「時代性にとらわれない」ことです。私は、元々古いものやクラシックな質感が好きです。時代をあえて固定せず、見る人が「新しいのに、どこか懐かしさを感じる」映像を作ることを目指し、撮影場所、衣装や美術など、細部まで拘っています。

もう1つは個人的な感情を大切にすることです。私たちはそれぞれがそれぞれの物語を生きていて、その中で言葉では言い表せない、小さな感情に揺れ動かされています。そうした個人的な感情に寄り添った様々な物語=記憶を、1つ1つ丁寧に描いていける監督になりたいです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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