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濱中 利信:エドワード・ゴーリーの世界

2020/11/17

  • 濱中 利信(はまなか としのぶ)

    ライター・1985文

エドワード・ゴーリー(EdwardGorey)は、アメリカの作家・イラストレーターです。アルファベット26文字それぞれを名前の頭文字とする26人の子供たちが死ぬ場面を描いた『ギャシュリークラムのちびっ子たち――または遠出のあとで』や、あるお屋敷に正体不明の生き物が現れ、一家を翻弄する『うろんな客』などが代表作として知られています。

ゴーリーの作品は、「暗い」とか「残酷だ」というネガティブな言葉で括られてしまうこともありますが、本当の魅力は全く別のところにあります。押韻を用い、用語を厳選するなど徹底的に考え抜かれたテキストと、細い線で「これでもか」と描きこまれたイラストは、不条理で高度なユーモアを含んでおり、読者に単純な解釈を許しません。謎多き世界観。それがゴーリーの魅力なのです。

私がゴーリーの作品を知ったのは中学生の頃で、雑誌『ミステリマガジン』に掲載された「オードリー・ゴアの遺産」という作品でした。中盤までは本格ミステリ小説のような展開なのに、結末は何とも不可解。そのアンバランスさに戸惑いながらも、何回も読み直してしまい、最終的には虜になってしまったのでした。

ゴーリーの作品には、自分自身の名義による書籍の他、他作家の著作にイラストを添えたり、ジャケット画のみを描いた本などがあり、その総数は数百に及びます。その中には、数百部のみ限定出版された私家版や、他作家(サミュエル・ベケットやジョン・アップダイクなど)とゴーリーのサインを入れた限定本などがあり、それを収集するコレクターが世界各国に存在しています。私もそのコレクターの1人として、書籍はもとより、カレンダーやマグカップなどのグッズ類、ポスターやエッチングなどを収集しています。

中でも一番自慢できるのは、約20点ほど所有している原画でしょう。ゴーリーの描く線はとても繊細かつ密集度が高いので、本やポスターなどの印刷物になった場合、掠れて見えなくなってしまったり、真っ黒に潰れてしまったりして本当の魅力が伝わりません。また、翻訳の出ていない作品がまだ沢山あります。今後何らかのかたちで、私のコレクションを通してゴーリーの魅力を広めていきたいと思います。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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