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【塾員クロスロード】
横田 真人:スポーツは誰のものか

2020/10/13

  • 横田 真人(よこた まさと)

    TWOLAPS TC 代表兼コーチ・2010総

新型コロナウイルスの影響で、全国中学校体育大会と全国高等学校総合体育大会が中止となった際、報道の中心は、全国大会を目指しスポーツ推薦で進学をする学生への心配の声でした。彼らが青春をかけた舞台がなくなったことは非常に残念です。しかし、私達の中で「スポーツはトップだけのものなのだろうか」という違和感は日に日に大きくなりました。私が専門にしている陸上競技を例にとると、高校は11万人以上、中学は約20万人もの選手が陸連登録をしています。しかし、およそ30万人のアスリートにとって全国大会やスポーツ推薦はほとんど関係ありません。そこで新型コロナウイルスによってスポーツをする機会を奪われたすべての中高生に向けて「バーチャルディスタンスチャレンジ」というオンラインの陸上競技大会を開催することにしました。

陸上競技は記録を競うスポーツなので記録の正確性が重要です。公認の競技場で公認の審判員が計測を行うことで公認記録として認められます。しかし、コロナ禍で公認競技会を開くことが困難であったため、競技中の動画を撮影して動画サイトに投稿してもらうことで簡易的に再計測を行い、大会を成立させました。

大きなスタジアムでも学校の校庭でも、どこでも参加可能なルールを確立し、1,800を超える記録が投稿され、1,490人、332チームの参加をいただききました。単に記録を羅列したランキングシステムではなく、「♯バーチャレ」というハッシュタグで多くの方が心に留まった動画をSNSに投稿してもらうことで、アスリートの頑張り、彼らを支える人の感情や色々な想いが目に見えることにもなりました。良い記録が出た動画だけでなく、仲間や家族、先生との絆が詰まった動画が拡散されていきました。それにより、メダルの数や勝利だけでないスポーツの価値が広がっていきました。

私は2012年にオリンピックに出場し、アメリカを拠点に競技生活を送った後、16年に現役を引退しました。現在は、所属、性別、種目の垣根を超えた新しい形の中長距離のクラブチームTWOLAPS TCを立ち上げてトップ選手を育成しています。それだけでなく、トップアスリートを支えるスポーツ文化の醸成にも力を入れていき、持続可能なスポーツのあり方を今後も模索し続けていきたいと考えています。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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