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生田 哲:「ガラス芸術」の追求

2020/08/21

  • 生田 哲(いくた さとし)

    ガラス工芸作家、株式会社生田グラス代表取締役・1971商

ガラス工芸のエッチンググラス・ステンドグラス分野で創作活動をしています。テーマは「自然」「未来」で、単に植物や風景をリアルに描写するのではなく感性ある表現を心掛けています。伝統的な作品を凌駕し新しく高度な技術を研究開発し、研鑚努力して習得した技を作品に生かす向上心が大切だと考えています。

公私共に多くの出会いと幸運に恵まれました。大阪の生家近くに村野藤吾氏の建築設計事務所があり「当社創業(昭和6年)間もないある日、先生がふらっと1人でお見えになった。試作中のエッチンググラスを気に入られて足繁く通われ、設計中のそごう百貨店心斎橋本店で多数採用して下さり自信が付き、当社の礎が出来た」と父が話していました。エッチンググラス先駆者として日々ガラスに向かい切磋琢磨している姿を見て育ち畏敬の念を持っていた私は同じ道に進む決意をしました。

大学時代、欧米文化に興味を抱きふらんす文化研究会に所属して長期間欧州研修に行き本場の装飾ガラスに触れた経験を生かし、建築用ステンドグラスの業容拡大に貢献し今に至っています。作品制作と共に大阪証券取引所ビルの改築時のステンド修復、大阪府庁舎正庁や住友銀行本店の大天井・大窓のステンド修復など、昭和初期の装飾ガラス再生も多く手掛けました。修復分解すると補強法など創意工夫を重ねている跡が良く分かり、当時の知恵や情熱を後世に継承したく思います。

また日本各地や海外の芸術家の方々と交流する機会にも恵まれました。多くの一流工芸家との親交は身をもって工芸の奥深さを実感させられます。取り分け日本青年会議所芸術部会の諸先輩方や仲間とは、仕事場を相互訪問する中で門外不出技法の真髄などにも触れました。備前焼の藤原雄先生、金重道明先生の精神論、ガラス工芸の岩田久利先生の御宅での歓談、裏千家今日庵訪問の空気感など、格別に心に響いた得がたい経験でした。芸術部会第18代部会長に推された時には親身になり皆様に応援して頂きました。一芸に秀でた方々はハートも超一流、知的で思いやりがある心を学びました。

今後も追求し続けたい──。

「洗練されたガラス芸術を追求する」をより実践すべく〈天職に喜びと感謝〉して、まだまだガラス工芸の発展と普及に邁進して行きます。(「生田グラス」を検索して下さい)

大阪証券取引所ビル修復再生-昭和10年に父がエッチンググラス部を制作したもの。近年、改築に際しステンド部を含め全体を分解修理をしました
「緑々淡々」i生田哲-カラーエッチンググラス、日本のガラス展出品作

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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