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【塾員クロスロード】
下山田 志帆:スポーツ界から、声を届ける

2020/04/23

  • 下山田 志帆(しもやまだ しほ)

    女子サッカー選手・2017環

「女子サッカー選手です。彼女がいます。」そんな一文を添えて、Twitter でカミングアウトした。2019年の2月のことだった。

当時、ドイツのブンデスリーガ2部に属するSVMeppen というチームでサッカーをしていた私。塾卒業後、すぐに渡ったドイツでは同性婚が認められていて、私のようなセクシャルマイノリティの人たちが当たり前のように社会に溶け込んでいた。チームメイトにも当事者が数名いて、クラブ公式行事にパートナーを連れてくるほどのオープンさ。ドイツにいた2年間で、誰にでもどんな時でも嘘をつかないで生きていけることの素晴らしさを知った。

一方、日本ではセクシャルマイノリティであることにどこかタブーさを感じ、相当な生きづらさを感じていた。「好きなタイプは?」と聞かれれば「足が速い人」と男女どちらでもよい答えを考えだし、レディーススーツの着用が部則にあればモヤモヤした気持ちを隠してスカートをはき続けた。でも、もう限界だった。ドイツでの生きやすさを体験してから、一生小さな嘘を積み重ねることを恐れるようになった。だから、あの投稿をしたのである。

最初こそ、自分を助けるためのカミングアウトだった。けれど、あの投稿をした後、様々な年代の当事者アスリートから連絡をもらい、いつしか自分のカミングアウトの意味を感じ始めた。目に見えないだけでスポーツ界にはたくさんの当事者がいるということ。そして、セクシャリティが原因でスポーツを楽しめない人がいるということ。この環境を変えるためには、当事者として彼らの代わりに声をあげなくていけない。そんなふうに思うようになった。

現在、私は日本に帰国し、なでしこリーグ2部のスフィーダ世田谷FCに所属している。そして、セクシャルマイノリティの1人であることを公表した立場から「スポーツとLGBT」「女性アスリートと自分らしさ」の文脈で講演会等での発信活動もしている。慶應義塾で、そしてソッカー部で学んだ「組織のために何ができるのか」を問い続ける力が、今の自分に間違いなく生きている。オリンピックイヤーの今年、スポーツを通して多様性に注目が集まるこのタイミングで、自分は何ができるのか。多様な個性を認め合う社会を目指す人たちと共に、当事者としての声を届けていきたい。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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