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【塾員クロスロード】
山下貴嗣:三方良しで「チョコレートを新しくする」

2019/11/26

  • 山下 貴嗣(やました たかつぐ)

    株式会社βace 代表取締役CEO、「Minimal ‒ Bean to Bar Chocolate ‒」代表・2007商

ニカラグア共和国サバロスという田舎町でこの文章を書き始めました。創業した「Minimal – Bean to Bar Chocolate –(ミニマル)」というチョコブランドでは、世界中のカカオ農園に足を運び良質な豆を探しています。バイヤーとして私は年4カ月ほど赤道直下の国々に滞在します。

大雑把に言うと、これまではチョコは廉価なお菓子か、高級ブランドの二択でした。そこに第3極として、産地や農園指定で限定数のスペシャルなチョコを楽しむ世界が生まれるかもしれない、ワインでいうロマネコンティのような世界です。それが私達のブランドビジョンである「チョコレートを新しくする」ということです。10年後? 20年後? にそんな未来が来ることを信じてチョコ造りを行っています。

農園に行き驚くことはカカオ農家でチョコを食べたことがない人がまだいることです。旧植民地貿易時代の産業構造が根深く残っています。私達が市場価格より高く直接取引をする選択肢を提示することで量経済に支配されていた農家に価格の決定権を戻すことができます。ここで大事なのは質とは何かを理解してもらうこと、そのためにやはり直接会いにいって話すことはとても重要です。

同様に大事なのは、精魂込めて作ってくれたカカオ豆の個性を徹底的に理解しチョコで表現することです。カカオ豆は同じ農園、同じ木でも時期によって味は違います。その違いを理解するために毎日吐くほどチョコを食べ、豆ごとにレシピを変え、年間で3000以上のレシピを作ります。その結果、国際品評会で部門別最高金賞等、多くの受賞を頂くことができました。しかしこれはゴールではなく、チョコを通してお客様に豊かな食体験を提供できていることが重要です。美味しくなければ対価を継続的に頂くことはできず、農家からの買付を持続できません。だからこそ美味しさを追究し続ける。先は長いですが、消費者の皆さんが一口食べて農園の個性がわかるチョコを造っていく努力を続けています。

私達が農家に正当な対価を払い、良いチョコ造りをし、お客様が満足し対価を頂く〝三方良し〟の関係性を創れれば、新しいエコシステムを創っていくことができます。単なる支援ではなく、商売を大きくしていくことで世界の格差が是正され、ほんの少し良くなっていく。そんな未来を信じて精進していきたいです。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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