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【塾員クロスロード】
瀧俊雄:お金の不安は、なくせる

2019/03/12

  • 瀧 俊雄(たき としお)

    マネーフォワード取締役・2004経

みなさんにとって「お金」とは何だろうか。7年前に創業した当社の答えはシンプルだ。「お金」は人生のツールに過ぎない。

人間は、家庭や仕事の様々な側面で、驚くほどに意思決定を先送りする。特にお金は夫婦でも親子でも相談することが難しい。結果として取るべき行動が遅れ、このままで大丈夫だろうかを心配しながら、漠とした不安が蓄積していく。過去数十年の経済環境を見れば、雇用、年収、産業競争力、財政や社会保障など、不安な要素も山積みだ。そして、少しずつ我慢を重ね、他者にも同様の行動を求める。それが「お金」のよくあるイメージだろう。

当社は、お金の不安を、未来に向けた行動へと変える会社だ。毎月数分の作業で完成する家計簿や、会社帳簿の全自動作成、おつりと連動する貯金、といったお金に関する自動化サービスを提供している。目指すのは、ストレスを伴う判断や作業は機械に任せ、本当に大事な意思決定に時間をかけられる社会である。

金融とテクノロジーの融合を表すフィンテックと呼ばれる動きの中で、金融産業においてもスマホの利用が当たり前になり、政策もイノベ ーションを強く後押ししている。従来であれば、わからない、めんどくさい、とされてきた金融サービスは、例えばLINEから投資や保険加入、送金が可能となったように、直感的にわかりやすく進化してきている。ここまで未来に向けた行動をすぐにとることができるならば、不安はなくなるものだ。

学部時代、経済の本質的課題を弛まず考え続ける姿を池尾ゼミで教わった私は、お金の流れから社会を変える仕事をするべく、証券会社で金融制度の研究と提言の仕事に就いた。研究者としての仕事は実に刺激的だったが、スタンフォード大学へのMBA留学を経る中で、変化を自らの手で実現できないかと感じ、仲間との起業へと至った。様々な人の支えもあり、会社は今や400人を超える規模となった。私の役割も業務構築するフェーズから、政策提言や業界の振興といった公的なものとなりつつある。だが形は変われど、私は常に変化の実践者でありたい。「一生懸命にやるべきは、普通の生活に役立つ実学である」という福澤先生の言葉に忠実な、生活から不安をなくすサービスを今後とも届けていければと考えている。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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