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【塾員クロスロード】
庄司祐美:歌を紡ぐ日々~至福の時へ

2019/02/21

  • 庄司 祐美(しょうじ ゆみ)

    日本演奏連盟会員、二期会会員、メゾソプラノ・1992文

思えば日吉で心理学専攻の卒業証書を頂いた、霙(みぞれ)も降った寒い日は芸大声楽科の合格発表の日。以来、声楽の道を邁進してきた。シュトゥットガルト州立音大には2年半留学。大学のマックス・レーガー歌曲演奏会(SWRで放送)やマスタークラスの一環でバッハ週間のカンタータ、ライン河辺の館でのフランス歌曲等、演奏の場にも恵まれた。ウィーンではグルックのオルフェオのアリアを歌う前日、シルヴィア・ゲスティ先生から舞台での「至福の時Sternstunde」について教えて頂いた。それは意図して得られるものではなく、自分の技に徹していると、ある時、上から降りて来てくれるものだと。かつて三田の図書館で往年の名歌手ロッテ・レーマンの著書『歌の道半ばに』を手にした私の芸大博士修了時の指導教授は奇しくも米国でそのレーマンに師事した方となった。

夏に渡欧して参加したペーター・シュライアー、ブリギッテ・ファズベンダー各氏のマスタークラスも忘れ難い。二期会オペラ《ワルキューレ》出演(NHK-BS で放送)やボン、 ベートーヴェンハウスでのシューマン生誕200年記念リサイタルもあった。私が一番多く歌ってきたのはドイツリートだろうか。リートとは歌曲のこと。作曲家にはベートーヴェ ン、シューベルト、シューマン、ブラームス、ヴォルフ、マーラー、リヒャルト・シュトラウス等々、詩人もゲーテ、ハイネ、メーリケ、アイヒェンドルフ、クロプシュトック、 リュッケルト他多数。内容は自然や死生観を歌うものから、大多数を占める恋愛の歌まで。ピアノ伴奏による1曲数分の、ナイーヴで熱い、凝縮された世界。そこには交響曲のような大規模作品では見られない楽聖たちの顔が現れ、その存在が身近に感じられることも多い。これらを歌う原語歌唱のリサイタルでは解説や歌詞対訳もお配りし、豊かな内容を共有して頂けるよう心がけている。

また音楽史の縦糸だけでなく横糸を辿る意義も感じており、伊・仏・西語くらいまでは歌うことに。昨年はカントルーブ編曲のオーヴェルニュ地方の民謡(オック語)も愉しんだ。今年は4月にシューマンの歌曲集《詩人の恋》やフォーレ、シューベルトの歌曲によるリサイタル、8月には日吉のバッハ講義も懐かしい樋口隆一先生指揮によるバッハ・カンタータ演奏会でアルトソロを歌わせて頂く予定で準備に励んでいる。

※所属・職名等は本誌発刊当時のものです。

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